ちょっと長めのフィアット 500ジョリー
名門「ボナムズ・オークション」社は、「LES GRANDES MARQUES DU MONDE À PARIS(パリに集う世界の偉大なブランドたち)」と銘打ち、レトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とする大規模オークションを2025年2月6日に開催しました。今回はその出品車両のなかから、2代目フィアット「500」をベースにカロッツェリア・ギアが架装した有名なビーチカー「ジョリー」の、ちょっと変わった1台を紹介します。
ドルチェ・ヴィータ時代を体現するスピアッジャって……?
これまでAMWオークションレビューでもしばしばお話ししてきたとおり、1950年代~1960年代のイタリアでは「スピアッジャ(Spiaggia:デッキチェア)」というジャンルで呼ばれるクルマたちが少数生産されていた。
イタリア語のジャンル名が示すとおり、濡れた水着のままでも乗車できるようにラタン(籐)で編まれたデッキチェア状のシートを前後に配し、ルーフはいさぎよくカットオフ。ドアも取り去られた代わりに、まるでレストランやカフェのようなタッセル(飾り房)つきの布製サンシェードを掛けた、なんとも洒落たビーチカーである。
その代表格だったのが、フィアット「600」や「ヌォーヴァ500」などをベースに、イタリア・トリノのカロッツェリア「ギア」社が少量製作した「ギア・ジョリー(Ghia Jolly)」。その歴史は、J.F.ケネディ元大統領夫人だったジャクリーンの再婚相手となったことでも知られるギリシャの海運王、名うてのプレイボーイでもあったアリストテレス・オナシスが、フィアット 600をベースとするビーチカーの製作をカロッツェリア・ギアに依頼したことから始まったとされている。
高級リゾートホテルやゴルフ場の送迎車としても使用された
その後、オリジンである「600ジョリー」。より小さなヌォーヴァ500をベースとする「500ジョリー」は、モナコのレーニエ3世大公とグレース王妃夫妻、あるいはフィアット総帥のジャンニ・アニエッリなど、1950年代~1960年代を代表するセレブリティたちがこぞって愛用していたことから、ヴァカンスにおける「ドルチェ・ヴィータ」の象徴として、大衆の憧れの的となっていた。
また、夏のヴァカンス(イタリアではヴァカンツァ)を人生でもっとも大切なものとみなしてきた南ヨーロッパのみならず、西海岸を中心とするアメリカでもけっこうな人気を博し、高級リゾートホテルやゴルフ場の送迎車としても使用された。
今回のオークション出品車も、フィアット500をベースとした500ジョリーの1台なのだが、これまで見慣れた500ジョリーではなく、ちょっと長めのボディを持つワゴン版「ジャルディニエラ」をベースとする、特別なジョリーだったのだ。
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