EV普及にはまだまだ問題が山積み
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「EVは環境にいい?」です。リチウムイオン電池を搭載するEVは車両重量が重く、タイヤの消耗を進めることで粉塵の原因が加わると、せっかくの環境車のイメージが薄れかねないと木下氏は言います。
EVを動かすためには化石燃料を燃やしている
サステナブルな環境意識の高まりに比例して、EVの増加は世界的な傾向である。ホンダやボルボのように、近い将来の完全EV化を発表したメーカーも少なくない。ドイツは内燃機関モデルの販売禁止政策を進めているほどだ。
「まもなくガソリンエンジンが消えてしまう」
そんな心配をした御仁も少なくなかろう。だが、EVがすぐさま内燃機関を墓場に葬り去るはずもないことは、誰もが想像するところだ。十分な急速充電器の配備が課題であり、そもそもその電力を賄うに十分な発電量への心配もある。
EVは走行中にいっさいのCO2を排出しないこともあり、環境イメージは強い。だが実際には電力は化石燃料を燃やして得ていることに世間は気づき始めてしまった。EVに積極的なメーカーが盛んに喧伝してきた「EV=環境にいい」のイメージも、グスグスと崩れそうな気配だ。あれほど猛威を振るったEV信仰者の勢いも落ち着きを取り戻しつつある。
その風潮を後押しするデータがある。EVに搭載されるバッテリーは決して軽くはないこともあり、重量増を招いている。それがタイヤの消耗を進め、粉塵の原因になっているというのだ。アスファルトを削りやすいこともあり、その点では軽量なガソリン車より環境に悪い。それが根拠だ。
経済開発機構の試算ではタイヤ摩耗による微粒子が、ガソリン車との比較で3割増すという。人体に悪影響を及ぼす微小粒子物質「PM2.5」も同様に増える。
タイヤだけではなく、ブレーキにも注目する必要がある。これまでのように、ブレーキローターを削ることで摩擦力を引き出していては、タイヤ同様に粒子物質が大気を舞う。ブレーキローターをいたずらに削らず、パッドが吸着することで減速力を引き出すブレーキをディクセルが販売するなどしているものの、完全普及まではまだ遠い。
EVはガソリン車に比較すれば安全度では劣る?
米国の国家運輸完全委員会は2024年、EVについて、道路利用者の安全が損なわれるとして注意を呼びかけた。クルマの重量が増えると、停止距離が伸びる。衝突した時のエネルギーも増大する。安全技術は日進月歩で進化しているとはいえ、ガソリン車に比較すれば安全度では劣るというわけだ。
EVの肥大化は進んでいる。ユーザーが気にする航続距離を伸ばすには、より大容量のバッテリーを搭載する必要がある。その分重量増を招く。自動車検査登録情報協会の調べでは、2003年から2023年の間、乗用車の重量は平均して100kg増え、1400kgに達したという。中国・上海汽車の「ET7」は、航続距離930kmだが、車重は約2600kgに達した。米国テスラの「サイバートラック」は最軽量グレードでさえ2990kgと超重量級モデルになってしまった。
そもそもEVはその電力を化石燃料に頼っている。リチウムイオン電池の処理の問題も含めて、これまでのような盲目的なEV信仰ではなくなってきている。そんなEVに粉塵の問題が加われば、せっかくの環境車のイメージが薄れかねない。
EV普及にはまだまだ問題が山積みのようだ。