ずっと休眠していた「エスロク」を還暦を前にして復活
千葉県のナリタモーターランドで行われた「アバルトカップ」2024年最終戦は、「走り好き」ならアバルトに限らず、車種や年式を問わず参加できるタイムアタック形式の走行会。そこで「いい音してたでしょ! あそこの立ち上がりでは1万1000rpmからのレッド超えてもまだ回ろうとしていますよ」と言うのは、1本目の走行を終えたばかりの松永 基さん。愛車は23歳の時に乗り始めたというホンダ「S600」です。
リフレッシュしようと工場に預けたまま30年……
学生時代は家のクルマで過ごしたという松永 基さんが、社会人1年目、23歳の時に買ったというのがこのホンダ「S600」。通勤や遊びにと松永さんと行動をともにするも、仲間たちと三浦半島へツーリングに行った帰り道、観音崎のカーブでスピンした拍子に、チェーンケースから異音が始まった。
「この当時のエスって、初任給の3カ月分か4カ月分で買えた安く楽しめるスポーツカーだったんですよ。これはチェーン駆動だったので、スピンした時にチェーンが飛んじゃったんだよね。なんとか帰宅はできました(笑)」
当時は、リーズナブルで楽しめるクルマの1台だったという「エスロク」。そうした状況だったので、クルマに不具合が出た時は当初から全てをリフレッシュしようと考えていたという松永さん。すぐにエスロクを工場へ入庫させ、工場主と一緒になって分解を始めた。
「1週間後にはバラバラになって、しばらくするとエンジンも仕上がっていたし、ボディもペイントしてくれているんですけど、工場主の手が止まって、あと少しなのに直らなかったんですよ。都度都度ちゃんとお金も払っていたんだけどね~」
そうしてるうちに結婚したことなどもあり、松永さん自身もエスロクに時間を割けなくなったまま年月が経過した。やがて、綺麗だったボディもあちこち錆びてきた。預けていた工場から自宅ガレージに引き上げたのは2019年のことだ。
コロナ禍の最中、自宅ガレージで各部を組み立て
還暦までに復活させようと「エスロク復活計画」として、まずは工場から持ち帰った「松永パーツ」と書いてある5~6個のダンボール箱から、パーツを並べてみたという松永さん。
「しかしクルマって、ここまでバラバラになるんだな! と30年前に感じましたが、その記憶とともに、ひとつひとつのパーツの記憶が残っているのが不思議でしたね。何が無いかもすぐ分かりました」
長年の保管の間に、ステアリングシャフトにドライブシャフト、それに油圧系のパイプ配管一式が失われていたという。
そしてコロナ渦のステイホーム時、自宅ガレージで自分で各部の組み立てを始め、いよいよ最終作業を残すのみとなり工場を探した。
するとホンダスポーツの仲間が小田原にあるショップ「馬育屋」を紹介してくれた。バイク修理は息子さんに任せ、現在はホンダスポーツなど好きなクルマやバイクを面倒見ているという、そこのオヤジさんが作業を引き受けてくれたそうだ。
「何度か馬育屋さんに通って、信用してもらえたので今度ボディとエンジン持ってきますって、搬送したのが2021年の4月です。10月には30年ぶりに自分のクルマのエンジンがかかった! この喜びは自分以外には理解してもらえないよね(笑)」
欠品となっていたパーツも馬育屋さんで調達してもらい、無事に公道復帰を果たしたのがちょうど取材時の2年前、2022年の冬であった。
青春の忘れ形見=エスロクで走りを楽しむ
そのエスロクの不在時に手に入れていたもう1台の愛車、ランチア「ベータ モンテカルロ」で楽しんでいたというアバルトカップに、エスロクでも走りたいとすぐさまエントリーし、懐かしいフィーリングを楽しんだ。
それから、しばらく仕事が重なり参加できずにいたが、今回はエスロクで2度目のアバルトカップ参加だという。
「モンテカルロもエスロクも全然結果が追いついてきません(笑)。それでもスピンしなくなったりタイムアップしてるから、クルマとの対話はできてきてるってことだから楽しいですよね」
青春の忘れ形見ともいえるエスロクで2025年度もアバルトカップを楽しむという松永さんであった。
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2025年度のアバルトカップは、4月6日(日)のラウンド1を皮切りに、ナリタモーターランドにて4回開催の予定だ。サーキットで過ごす1日、エントリーフィーは1万2000円となっているが、半額になる学生割引もあるので、未経験の方もこの機会にぜひ楽しんでみてはいかがだろうか。気になる方は、124ssk65@gmail.comまで問い合わせていただきたい。
>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)