長い伝統を誇るディフェンダーのフラッグシップにふさわしい1台
「最もタフで走破性が高く、最もラグジュアリー」なランドローバー「ディフェンダー」のフラッグシップモデルとなる「ディフェンダー OCTA」に、南アフリカで試乗しました。「魔法の足まわり」をはじめ、その実力をオフロードを中心とした走りで試してきました。レポートをお届けします。
優れたオフロード性能に欠けていたのは「ダート路の高速走行」
ランドローバー「ディフェンダー OCTA」はディフェンダー・ファミリーのフラッグシップモデルだ。
なにしろ、最高出力635psを生み出す4.4L V8ツインターボエンジンは、現行ラインアップのなかでもっともパワフルというだけでなく、これまで販売されたどのディフェンダーよりもハイパワーなのだから、フラッグシップモデルを名乗る資格は十分以上といえる。
ただし、ディフェンダー OCTAはサーキットでベストラップを刻むために生まれたわけではなく、ディフェンダーの「本籍地」であるオフロードで最高の性能を発揮することを目指して開発されたモデルなのだ。もっとも、ディフェンダーと名のつくSUVであれば、どんなモデルでも最高レベルのオフロード性能を備えていることはいうまでもない。では、ディフェンダー OCTAは、いったいどのようなオフロード性能を手に入れたのだろうか?
「基本的にあらゆるオフロードを走行できるのがディフェンダーの特徴ですが、唯一、例外だったのがダート路を高速走行することでした」
そう語るのは、ジャガー・ランドローバー・グループのスペシャル・ヴィークル・オペレーション部門を率いるコリン・カークパトリックである。
「そこでダート路を高速走行するにはどういう性能が必要になるかを検討し、それらを盛り込む形で開発されたのがディフェンダー OCTAでした」
カークパトリックの指揮下で開発されたディフェンダー OCTAは、最終的に以下のようなスペックとされた。
車体が自然とフラットな姿勢を保つ「魔法の足まわり」を採用
エンジンが最新のV8ツインターボエンジンであることは前述のとおり。その最大トルクは750Nmと強力なうえ、48Vマイルドハイブリッドを装備しているため、オフロード走行で必要となる極低速域でも余裕あるパフォーマンスを発揮する。
シャシー面では、トレッドを68mmも拡大して基本的な走行性能を高めたうえで、ロードクリアランスを28mm増やして圧倒的なオフロード性能を確保した。
しかし、シャシー面で本当に注目すべきは、ジャガー・ランドローバー・グループが独自に開発した6Dダイナミック・サスペンションにある。これは前後左右のサスペンション・ダンパーを油圧的に結合することで、車体が自然とフラットな姿勢を保とうとする「魔法の足まわり」。
サスペンション自体が姿勢を水平に近づけようとするので、車体のロールを防ぐアンチロールバーが実質的に不要になるほか、一般的なサスペンションに比べてソフトなスプリングやダンパーを選べるというメリットがある。スプリングやダンパーを柔らかくできれば、それだけ個々のサスペンションが自由にストロークできる余地が増え、オフロードで大地を捉え続ける能力(これをロードホールディング性という)も高まる。つまり、6Dダイナミック・サスペンションはオフロード性能を高めるのに有利な特性をもともと備えているのだ。
いっぽうで、スプリングやダンパーを柔らかくできれば乗り心地の改善につながる。しかも、車体をフラットに保つ=ロールが小さければオンロードでのコーナリング性能を高めるのにも役立つ。というわけで、6Dダイナミック・サスペンションは、あらゆる環境で走行性能を高める「魔法の足まわり」ともいえるのだ。
そのパフォーマンスを確認するため、南アフリカで開催されたディフェンダー OCTAの国際試乗会に参加した。
高速から悪路までいなす「魔法の足まわり」に感激
今回は悪路を走行するメニューがたっぷりと盛り込まれていたので、試乗車にはアドバンスド・オール・テレインタイヤというオフロード走行に特化したタイヤが装着されていた。しかし、ケープタウン市内の舗装路を走っているときでもステアリングの手応えはしっかりとしていて、操舵時の遅れもまったくといっていいほど感じなかった。それと引き換えに、乗り心地はやや硬めだったものの、過酷なオフロード走行に備えるにはやむを得ない選択だったといえる。
ちなみに、日本市場ではこのアドバンスド・オールテレイン・タイヤはオプションでも選択できず、より一般的なオールテレイン・タイヤもしくはオールシーズン・タイヤが設定されるという。舗装路での乗り心地とハンドリングに関していえば、こちらのほうが格段に良好だろう。
ケープタウンから高速道路を北に進み、目指すオフロードを走り始める。硬く引き締まったダート路を、先導車に引きつられるまま「超高速域」で走り続ける。乾燥した地帯ゆえに砂煙がもうもうと舞い上がるが、そのなかをディフェンダー OCTAは力強く進んでいった。
デコボコ道でもタイヤが路面を捉え続けたのは、間違いなく6Dダイナミック・サスペンションのおかげ。しかも、車体が比較的フラットに保たれるため、猛スピードで走り続けても乗員の疲労度は最小限に留められる。私はこれまでにさまざまなSUVに試乗してきたが、こんな走りができるモデルは初めてだ。
インテリアからガタピシ音が聞こえることもなかった
さらには険しい岩場や砂漠のように柔らかい砂地でも試乗したが、ディフェンダー OCTAは一度もスタックすることなく、すべての行程を無事に走りきった。その圧倒的なオフロード性能は、クロスカントリー4WDとして長い伝統を誇るディフェンダーのフラッグシップモデルに相応しいものといえる。
そしてもうひとつ印象的だったのが、ディフェンダー OCTAの驚異的なタフさだった。今回の国際試乗会は2週間にわたって開催されたが、途中、一切のメンテナンスを行わなかったにもかかわらず、トラブルを起こしたことは皆無だったという。
しかも、悪路で散々酷使されていながら、インテリアからガタピシ音が聞こえることもなかった。よく、モノコックボディやエアサスペンションは高い耐久性や堅牢性の点でクロスカントリー4WDには相応しくないとされるが、ディフェンダーに限っては、そうした既成概念は一切通用しないように思えた。
ディフェンダー OCTAは限定生産モデルで、2025年モデルは合計220台が日本市場で販売されたが、2000万円を超える価格にもかかわらず、すでに完売の模様。ただし、ディフェンダー OCTAは2026年以降も設定される予定なので、ご興味をお持ちの方は辛抱強く待つことをお勧めする。