2/3スケールとなった、ジェームズ・ディーン終のクルマ
オークション業界における世界最大手の座を「RMサザビーズ」社と争っている英国「ボナムズ」社がパリ市内で2025年2月6日に開催した「LES GRANDES MARQUES DU MONDE À PARIS」オークションでは、クラシックカーや近代スーパーカーなど1/1サイズ、本物のクルマたちが数多く出品された一方で、子どものために小型化した、いわゆる「ジュニアカー」あるいは「チルドレンズ・カー」たちのカワイイ姿も見られたようです。今回はそれらの出品車両から、ポルシェ「550スパイダー」を忠実に2/3スケール化した1台を俎上に載せ、そのあらましと注目のオークション結果についてお伝えします。
モチーフとされたのは、伝説のポルシェ 550スパイダー
本題であるジュニアカーについて話を進める前に、まずはモデルとなったポルシェ「550スパイダー」について、ごく手短に解説させていただきたい。
ポルシェ初の本格的「レン・シュポルト(Renn-Sport:レーシングスポーツ)」である550スパイダーは、1953年のパリ・サロンにて発表された。当時の市販モデル「356」の一次プロトタイプで試行されたミッドシップ方式を初めて本格的に導入し、エンジンは356と同じく水平対向4気筒ながら、複雑な組み立て式クランクシャフトを持つ、バンクあたりDOHCのいわゆる「フールマン」ユニットが搭載された。
そして生来の目的であるレースには、まず1.5Lクラスのクーペバージョンで参戦を開始し、1953年の「ル・マン24時間」レースで15位と16位に入賞。1954年の「カレラ・パナメリカーナ」ではハンス・ヘルマンがクラス優勝を果たし、その名声を確立してゆく。
その後も「ル・マン」や「タルガ・フローリオ」、「ミッレ・ミリア」、「カレラ・パナメリカーナ」など、ヨーロッパやアメリカでエントリーした約170戦のレースのうち、じつに95戦で勝利(クラス優勝を含む)を収めたとされている。
また往年のハリウッドスター、ジェームズ・ディーンがその命を失ってしまった事故の際に運転していたことでも知られる、まさしく伝説的なポルシェなのだ。
子どものためのル・マン・クラシックにも参戦可能な1台
さて、このほどボナムズ「LES GRANDES MARQUES DU MONDE À PARIS 2025」オークションに出品された、この本物と見まごう2/3スケールの550スパイダーは、ドイツの専門工房で製作されたものだという。
スチール製シャシーとプラスチック製ボディに、電動スターターつきの196cc単気筒4ストロークで5psを発生するエンジンを搭載。後退ギアつきのトランスミッションと組み合わせる。
また前後の調節可能な本革シートが2脚、開閉可能なドアとトランク、調節可能なペダル、リアアクスルのディスクブレーキ、ウッドリムと金属製スポークを持つステアリングホイールなどを装備。ちゃんと機能するヘッドライトや、ウインカーなどの灯火器も完備しているとのことである。
全長2700mm×全幅1190mm。最高速度は65km/h(リミッター設定可能)。そしてディテールに至るまで美しく保持され、新品同様のコンディションを誇るとのこと。くわえて、かの「ル・マン・クラシック」のエキシビションとして開催される、少年・少女レーサーのためのル・マン・クラシック「Little big Mans」に参加する条件も満たしているという。
やや強気なエスティメートを設定するも……
出品者である現オーナーはボナムズ社の営業担当者と相談のうえ、1万8000ユーロ~2万5000ユーロ(邦貨換算約288万円〜400万円)という、なかなか強気とも映るエスティメート(推定落札価格)を設定。さらにこの出品については、多くのオークションでジュニアカーに適用される「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定した。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額の多寡を問わず確実に落札されることから競売会場の雰囲気と購買意欲が盛り上がり、ビッド(入札)が進むこともあるのがメリット。しかしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうという落とし穴も同時に存在する。
そして迎えた2025年2月6日、1900年のパリ万博会場である「ヒストリーク・ドゥ・グランパレ」にて行われた競売では、リスクに挑んだことが裏目に出て、終わってみればエスティメート下限を大きく割り込む1万1500ユーロ。現在のレートで日本円に換算すれば、約187万円で競売人のハンマーが鳴らされることになったのである。