メルセデス・ベンツのシート造りの特徴とは
40年にわたりヤナセで活動してきた筆者が現役時代、オーナーから「メルセデス・ベンツは特にロングドライブしても疲れない」とよく言われました。その理由のひとつに、メルセデス・ベンツ独自のシート造りがあるのは間違いないところです。今回は、メルセデス・ベンツならではのシート造りにスポットを当てて紹介します。
正しく座る設計
室内空間の寸法の中心は何と言っても、やや高めにセットしたシート。この高めのシート位置と広くて優れた視界がメルセデス・ベンツでは安全運転に不可欠だと考えている。しかも室内空間を設計する重要なポイントは、人間を最優先していること。
この室内空間を決める時、メルセデス・ベンツのエンジニアたちは「95%の男性」と「5%の女性」を重視。95%の男性とは100人中5番目に背の高い男性で、5%の女性とは100人中5番目に背の低い女性を意味する。つまり、この2つのデータを基に最高と最低の寸法を割り出している。
さらに身体の上下運動のデータ等を加え、「ドライバーの腰部」を最重要ポイントとしてシートを設計。解剖学的にドライバーの背中をシートに密着させ、「正しい姿勢」で座ることを最重要視している。
疲れないシート設計
昔からメルセデス・ベンツのエンジニアたちは、適度な硬さのシートに正しく座らせることが「シート設計」語録として、語り継がれている。シートもメルセデス・ベンツは人間工学(エルゴノミクス)に限らず、生理学、心理学を取り入れ、人間を中心に安全設計している。
筆者が現役時代、オーナーからメルセデス・ベンツのシートは硬すぎるとよく言われた。メルセデス・ベンツのシート設計からすれば、一般のシートが柔らかすぎるというわけである。
よく姿勢の悪い人は疲れやすいといわれている。その理由は内臓が圧迫されているからだ。といえば、筆者も含めすぐピンと背筋を伸ばして正しい姿勢に座り直す。結果、意外と長く座っていられるものだ。つまり、内臓に負担が掛かっていないからで、あとは筋肉の慣れの問題である。
たしかにメルセデス・ベンツのシートは硬めだ。しかし、硬すぎることはない。「適度な硬さ」で、しかも優しくしてある。反対に座面や背もたれが柔らか過ぎるシートは、まず身体が沈み込みしっかりと安定しない。応接間の柔らかいソファが良い例といえる。ところで、人間には「自律神経」というものが働き、常に正しい姿勢に戻そうと自然と神経を使っている。姿勢がいったん崩れると、修正するのにかなりの力を必要とする。この微妙な動作が続くと疲労が早まり蓄積する。これに対し、適度な硬さに設計したメルセデス・ベンツのシートは身体が安定して姿勢が一定に保たれ疲れにくい。しかもシート自体のホールド性も良い。
メルセデス・ベンツのオーナードライバーとして、また家族がロングドライブで疲れを感じた時には、ぜひもう一度、深く座り直してみると良い。そしてシートの形状にすんなり身体を預けてみる。その時こそ、メルセデス・ベンツのシート本来の実力が発揮されるのがよく分かる。つまり、シート自体が適度な硬さなのでクルマの動きに合わせて少しずつ身体が自然移動し、「血液の循環」も良くなりロングドライブでも疲れなく安全だ。