扱いやすくデザインも多彩なファブリックシート
ファブリックシートとは、布を素材にしたシートのことである。多くのクルマに採用されているので、馴染み深い。ファブリックシートには「織物ジャージ」「トリコット」「モケット」といった種類がある。
「織物ジャージ」は、経糸と横糸を交互に合わせる平織で作られた繊維素材で、さらっとした手触りが特徴。名前の通り、衣類のジャージに似たような雰囲気を持っている。ファブリックシートの中では比較的汚れが付きにくい点が長所で、大きな短所はないといえる。
「トリコット」は織り目が細かく、なめらかでつるつるとした手触りが特徴の素材。通気性も良いが、つるつるしているので運転時に体勢がずれて運転姿勢が落ち着かない短所がある。
「モケット」はループ状の糸で織り出したパイルの柔らかい手触りと高いグリップを持つ素材で、ファブリックの中では高級感と耐久性を持つ点が長所。短所としては生産に手間が掛かるため、ファブリックの中ではコストが高くなるが、それでも根強いファンが多いといえる。特に、メルセデス・ベンツでは「ベロアシート」の設定があり、表面にビロードのような毛羽のあるなめらかな光沢が特徴であった(1990年後半から不採用になった)。
ファブリックシートの一番のメリットは扱いやすいことである。擦れに強くあまり劣化しなく、ほとんど傷付くことがなく本革シートに比べて耐久性も高く、安価であることも大きな魅力。そのうえ、長時間の使用にも耐え、編み目のおかげで通気性にも優れている。
特筆すべきは織り込んだ布生地なのでさまざまな色柄が作れ、最近、流行のチェック柄はその最たる例である。加えて、女性が好むカラフルな色柄があるのはファブリックシートならではの特徴で、ファブリックシートでも高級感を感じさせるデザインもある。
伝説の「300SL」で採用していたチェック柄
今、クラシックカーブームで、当時標準装備の布シートが重宝されている。特に、個性のあるチェック柄シートに人気がある。その主な理由のひとつとしては、伝説の1952年メルセデス・ベンツ「300SLガルウイングクーペ(プロトタイプ)」のシートが、布の鮮やかなブルーチェック柄であったからである。
手元にあるメルセデス・ベンツのカタログを見ると、より近年では1986年「560SL」(R107)や1987年「190E2.3-16」(W201)のシートセンター部やドア内張が布のブルーのチェック柄が標準装備。加えて、W124の最強モデルである「500E」も布のブルーのチェック柄が特徴。他、1983年「300D」「230E」「280E」「280CE」(W123)は布シートが標準装備。1986年の「Sクラス」(W126)カタログに目を転じると、「300SE」では布シートが標準装備、「420SEL」「560SEL」「560SEC」はベロアシートが標準装備となっている。特に、560SECのベロアはシートセンター部が横縞模様の特徴あるデザインだ。
ファブリックシートのデメリットを挙げるとすれば、汚れに弱い。例えば、ジュースをこぼした場合、優れた通気性を生む網目の間に入り込んでしまうとシミになり汚れが取れなくなってしまうからである。汚れたら専門家に任せるか、自分で汚れないようにあらかじめカバーをかける等の対策が重要である。