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メルセデス・ベンツの本革の最高品質は「2歳の南ドイツ産の雄牛」だった! こだわりのシート生地3種類を解説します

本革を使用することにより、本革の持つ独特の香り、見た目の質感、触れた時の感触がインテリアに高級感を与える。写真は2002年の初代マイバッハ 62のリアシート

メルセデス・ベンツのシート造りは生地に至るまで妥協なし

40年にわたりヤナセで活動してきた筆者が現役時代、オーナーから「メルセデス・ベンツは特にロングドライブしても疲れない」とよく言われました。今回は、メルセデス・ベンツ独自のシート造りにおける、生地へのこだわりを掘り下げて紹介します。一般的に、現在のクルマのシートに使用されている表皮は布のファブリック、本革、人工皮革のエクセーヌ&アルカンターラが多く3強と言われていますが、中でも本革は手触りが良く高級感がある素材です。

メルセデスの本革の最高品質は「2歳の南ドイツ産の雄牛」

本革を使用することにより、本革の持つ独特の香り、見た目の質感、触れた時の感触がインテリアに高級感を与える。このため、メルセデス・ベンツでは厳格な基準が適用され、高品質の本革と考えているのが「2歳の南ドイツ産の雄牛」である。この雄牛は、選ばれた飼料だけを与え、状態を常に監視し、「牛舎」で注意深く育てられる。また有刺鉄線を使用しないで育てる等、最高の条件下で育てられる。

放牧して飼われる牛の場合、地面に腹をつけて座ることになり、皮膚病などにかかりやすく、夜になると蚊や蛇などに刺されて痒くなる。また、有刺鉄線や石があれば皮膚を擦りつけてよく掻いたりするから、皮に傷がついてしまう。傷モノの皮はそれだけで、品質が悪いことになるからである。

以前、ダイムラー・ベンツ社の有名なトレーナー・マイスターが「皮を柔らかくするためにも牛にビールを飲ませる」と言いながら、酔っ払いの真似をして大いに笑わせてくれたことは今も筆者はよく覚えている。

一方、英国の高級車の本革となる牛の育て方は、「ワインを濾した殻を餌に混ぜて入れる方法」を取り入れている。やはり、牛の育て方がまるで違っているといえる。そういえば、おいしさや肉質の良さで「肉の芸術品」とされている国産牛は食欲増進のために、ビールや焼酎で身体をマッサージし、またミュージックを聞かせながら育てられているといわれている。

さて本題に戻すと、なぜ「雄牛だけ」を使用するかといえば、雌牛はミルクと子どもを生むから、非常に利用価値が高いからである。

メルセデス・ベンツ本革の特徴と加工

ナッパレザー(Nappa Leather)は、なめしと染色の後、小さな傷を目立たなくするため仕上げコートを皮に塗付する。しかもナッパレザーは主に車内の高温にさらされる場所に使用される。本来、このナッパレザーとはイタリア製のタンニンなめしの革のことで、タイコという大きなドラムの中でグルグルとまわして、シボというもみ加工をする。このため、表面の手触りは柔らかく、かつ、こしのある印象を受け、なめらかで高級である。また、部位によってシボの入れ方が違うのも特徴のひとつ。

シートにはアニリンレザー(Aniline Leather)が使用される。これも牛皮で、生産工程もナッパレザーとほとんど同じだが、シートに通気性を与えるために、穴開け加工が施されている。生皮になめし加工をした後、脱水、染色、給脂、乾燥のあとで、革の表面にしわ、傷、虫刺されなどの小さな傷がないか検査をする。

裁断後は個々の部位を互いに「手で縫い合わせ」、立体的に仕上げる。本革巻きステアリングの衝撃吸収部は、エアバッグが展開できるように「特別な機械縫い工程」にかけられる。

自動車に使われる本革は毎日の過酷な使用に耐えなければならない。例えば、フロントウインドウの下は、温度が100℃にも達することがある。永年にわたり、温度や湿度の変化にも耐える高い耐久性が要求される。しかも、人の乗り降りを想定して、機械で約3kgの力をかけて8000回こする。

また他の機械は、人が数年間シートの端に座ったのを想定して、10万回圧力をかける。パワーシートは1万5000回テストされる。そのうち3分の2はホコリを混入してレールなどの機能テストを行う。

扱いやすくデザインも多彩なファブリックシート

ファブリックシートとは、布を素材にしたシートのことである。多くのクルマに採用されているので、馴染み深い。ファブリックシートには「織物ジャージ」「トリコット」「モケット」といった種類がある。

「織物ジャージ」は、経糸と横糸を交互に合わせる平織で作られた繊維素材で、さらっとした手触りが特徴。名前の通り、衣類のジャージに似たような雰囲気を持っている。ファブリックシートの中では比較的汚れが付きにくい点が長所で、大きな短所はないといえる。

「トリコット」は織り目が細かく、なめらかでつるつるとした手触りが特徴の素材。通気性も良いが、つるつるしているので運転時に体勢がずれて運転姿勢が落ち着かない短所がある。

「モケット」はループ状の糸で織り出したパイルの柔らかい手触りと高いグリップを持つ素材で、ファブリックの中では高級感と耐久性を持つ点が長所。短所としては生産に手間が掛かるため、ファブリックの中ではコストが高くなるが、それでも根強いファンが多いといえる。特に、メルセデス・ベンツでは「ベロアシート」の設定があり、表面にビロードのような毛羽のあるなめらかな光沢が特徴であった(1990年後半から不採用になった)。

ファブリックシートの一番のメリットは扱いやすいことである。擦れに強くあまり劣化しなく、ほとんど傷付くことがなく本革シートに比べて耐久性も高く、安価であることも大きな魅力。そのうえ、長時間の使用にも耐え、編み目のおかげで通気性にも優れている。

特筆すべきは織り込んだ布生地なのでさまざまな色柄が作れ、最近、流行のチェック柄はその最たる例である。加えて、女性が好むカラフルな色柄があるのはファブリックシートならではの特徴で、ファブリックシートでも高級感を感じさせるデザインもある。

伝説の「300SL」で採用していたチェック柄

今、クラシックカーブームで、当時標準装備の布シートが重宝されている。特に、個性のあるチェック柄シートに人気がある。その主な理由のひとつとしては、伝説の1952年メルセデス・ベンツ「300SLガルウイングクーペ(プロトタイプ)」のシートが、布の鮮やかなブルーチェック柄であったからである。

手元にあるメルセデス・ベンツのカタログを見ると、より近年では1986年「560SL」(R107)や1987年「190E2.3-16」(W201)のシートセンター部やドア内張が布のブルーのチェック柄が標準装備。加えて、W124の最強モデルである「500E」も布のブルーのチェック柄が特徴。他、1983年「300D」「230E」「280E」「280CE」(W123)は布シートが標準装備。1986年の「Sクラス」(W126)カタログに目を転じると、「300SE」では布シートが標準装備、「420SEL」「560SEL」「560SEC」はベロアシートが標準装備となっている。特に、560SECのベロアはシートセンター部が横縞模様の特徴あるデザインだ。

ファブリックシートのデメリットを挙げるとすれば、汚れに弱い。例えば、ジュースをこぼした場合、優れた通気性を生む網目の間に入り込んでしまうとシミになり汚れが取れなくなってしまうからである。汚れたら専門家に任せるか、自分で汚れないようにあらかじめカバーをかける等の対策が重要である。

メルセデスが独自開発した人工皮革「MB-TEX」とは

本革シートは天然素材を丁寧に加工する必要があるので、どうしても高価になる。その欠点を補うのは人工皮革と呼ばれる素材で、アルカンターラがお馴染みである。人工だけあって化学的に作られた生地となり、アルカンターラは東レが開発したことでも有名。バックスキンのような触り心地のものが多く、耐久性も高く、比較的安価に抑えることができるメリットがある。

さて、かつてメルセデス・ベンツは1960年代初頭から、独自に開発した合成皮革を製造し、「MB-TEX」という呼称でシートやインテリアに標準的な素材としてオプションで長年設定していた。それは革によく似ており、本革と間違われる事がよくあったが、はるかに耐久性があり、ひび割れや摩耗がなく持続性も良かった。

メルセデス・ベンツではMB-TEXをフェイクとも本革とも呼んでいなく、本革に見えて本革でもなく、しかも耐久性抜群という、クルマのインテリアとしてはちょっと例を見ない質感を持った素材だった。

ドイツ本国ではタクシー用車両に多数使用された。メルセデス・ベンツは信頼性が高く、同時に高品質でもあるのでタクシー用インテリアでも手を抜くことはない。そこで採用したのがこのMB-TEXである。

日本では代表的なモデルとして、メルセデス・ベンツの「Eクラス」(W124/1984年~1996年)、「190E」(W201/1982年~1993年)までのシートやインテリアにこのMB-TEXが布より数万円高でオプション設定されていた。したがって、顧客がこのMB-TEXを選択するとメーカーの受注生産となり、納期は数カ月待ち。

それほど待ってまで乗る理由は明白である。このMB-TEXは合成皮革だから、タクシーで酷使されても強い耐久性も持ち合わせ、手入れも非常に楽(ビニールクリーナー)。ペットボトルの水等がこぼれても、水拭き一発でサッと綺麗に。またペットの毛の掃除も楽である。

特に、サーフィン等マリンスポーツを趣味にしている「W124ステーションワゴン」オーナーには、海から上がってすぐ濡れたままでも気にせず乗り込めるので重宝された。本革シートと比較すると、多少厚くゴワゴワ感があったが、とにかく丈夫だったので、リプレイス需要が少なく、W124(1984年~1996年)あたりで早くも生産終了となった。当時のW124のMB-TEXカラーサンプルは10色用意されオプションで選択可能であった。

最近のメルセデス・ベンツのインテリアには「レザーARTICO」(登録商標)と呼ばれる人工皮革を用いている。これも言わなければ分からないだけの質感を持ち合わせている素材である。

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本革というのは天然素材で本来限りのあるものである。そう考えると、量産品であるクルマのシートには布や人工皮革のほうが適しているかもしれないといえる。

クルマのシートは車内で大きな面積を占める部分で、直接身体を預けることになる重要な場所でもある。見た目だけで簡単に判断するのでなく、筆者としては今回紹介した各シート生地の特徴や長所・短所にも注目し、自分の家族に合ったタイプを選ぶようにしていただきたいと思う。

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