ダッジ デュランゴでの4人道中は終わり、この先はひとり旅
2024年の8月末から、アメリカをミシシッピ川沿いに南北縦断して音楽の歴史をたどる旅に出ることにした筆者。ニューオリンズでダッジ「デュランゴ」をレンタルしてBBキングにちなみ“ルシール号”と命名し、ブルースの故郷である「ミシシッピ・デルタ」を仲間と4人で巡りました。米国南部のカルチャーに触れる取材旅行も一段落し、他のメンバーとはお別れすることになります。
ローカルなケイジャン食品店で買い込みジャンバラヤを調理
タバスコ・ファクトリーを後にして、「すべての取材が終わった!」といいたいところだが、ひとつやり残したことがあった。それはジャンバラヤだ。ジャンバラヤはケイジャン料理の代表だが、なぜか前夜のレストランに置いていなかった。しかし、本を作るためには外せないアイテムだ。
どうしようか、車内で話し合っていると、田舎道の脇に突然、「ケイジャン・フレッシュ・マート」の看板が現れた。「とりあえず、入ってみましょう」という宮澤カメラマンの言葉に反応、急ハンドルで駐車場に“ルシール号”を滑り込ませた。
店内には、ローカルなスパイスや野菜が売られている。そのなかに、ありました! ジャンバラヤの素。米にスパイスが絡めてある一品で、これに肉や野菜を入れれば本格的なジャンバラヤができそうだ。
空港近くのAirbnbにチェックイン後、一緒に買ったワニのソーセージとパプリカ、タマネギを使って調理。最後の晩餐は、自家製のジャンバラヤのディナーとなった。
“ルシール号”とお別れしてこの先はひとり旅
9月16日、M編集長と宮澤カメラマンは帰国、原田さんはフロリダに住む友人のところへ向かう。この日から、ぼくはひとり旅になる。
全員、朝4時起床。早い! なぜかといえば、M編集長と宮澤カメラマンが乗るデルタ航空アトランタ行きが6時30分発なのだ。原田さんのマイアミ行きも7時30分発。まだ夜明け前のひんやりした空気の中、“ルシール号”に全員の荷物を積み込む。
早朝の別れは静かだ。言葉数も少なく3人を見送り、ぼくはレンタカー棟に向かった。ひとり旅にフルサイズSUVは必要ない。“ルシール号”をハーツレンタカーに返却し、小型SUVに乗り換えることになっている。そう、“ルシール号”とも、今日でお別れだ。
ところが、ここでアクシデント発生。レンタカー棟に着くと、全館、停電しているではないか! 案内表示もまったく見えない真っ暗闇だ。懐中電灯を持った係員に誘導され、真っ暗な建物の中で“ルシール号”を返却した。お別れのショットを撮ることもできなかった。
ひとり旅の相棒は未知の韓国SUV
時間は午前5時半。ハーツレンタカーのオフィスが開くのは午前6時。まだ30分ある。ベンチに座ってまずしたことは、荷物の中からヘッドライトを取り出すことだ。またもやヘッドライトが大活躍である。
大きな荷物を抱えたまま待っていると、オフィスにスタッフが現れた。しかし、電気が復旧しないとコンピュータが動かないため、なんの作業もできないという。それはそうだ。仕方なく、またベンチに逆戻りした。
6時半、ようやく照明がついた。ガランとした建物のあちこちで、パラパラと拍手が起こった。さっそく、カウンターで手続きをしてもらう。日本での打ち合わせでは、ジープ「コンパス」を希望してあった。しかし、「小型SUV」というだけで車種まで指定できないのは、どのレンタカー会社も同じだ。どんなクルマがぼくを待っているか、ドキドキの瞬間だ。指定された駐車場のスポットに行くと……。
「なんだ、あのクルマは……!」
思わず足が止まった。見たこともないクルマがポツンと佇んでいるではないか! フロントのエンブレムをみると「KIA」とある。車内に乗り込み、キーについたタグを見ると「Sportage」と車名が書いてあった。キア「スポーテージ」。初めて聞く車名である。
「そうか。こうなったか……」
小さな落胆が素早く脳を駆け巡ったが、気を取り直すことにした。韓国製のクルマを運転するのは初めての経験だ。これから約3週間、旅をともにする相棒。コイツとうまくやっていかなければいけない。
「よろしくね、キムさん」
ぼくは新しい韓国人の彼女にやさしく声をかけた。
* * *
このミシシッピの旅で筆者が取材した内容を1冊にまとめた本が2025年3月13日に発売となった。アメリカンミュージックのレジェンドたちの逸話とともに各地を紹介しているフォトエッセイ、興味のある方はぜひチェックを。
>>>『アメリカ・ミシシッピリバー 音楽の源流を辿る旅』(産業編集センター)
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