2002年式 フィアット パンダ ヤング
「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回は、巨匠ジョルジェット・ジウジアーロ氏の最高傑作にして、ヤングタイマー時代における小型実用車のマスターピースとしても知られるフィアット初代「パンダ」を俎上に載せ、そのあらましとドライブフィールについてお伝えします。
自動車史上もっとも偉大なベーシックカー!?
近年では「ヤングタイマー・クラシック」という呼び名がすっかり定着した感のある前世紀末のクルマのなかで、自動車史上もっとも偉大なモデルは何か? という壮大な質問を受けることがあるならば、筆者は迷いつつも「フィアット初代パンダ」と答えるだろう。
第二次大戦終結後から作られた欧州のベーシックカー、例えばフォルクスワーゲン「ビートル(タイプ1)」や初代「ミニ」、シトロエン「2CV」。あるいはパンダの祖先にあたるフィアット「500」などは、単に簡素なだけでなく輝くような独創性を持ち、それぞれの時代とお国柄を見事に体現。今なお世界中のファンに敬愛されている。パンダは、そんな素晴らしき時代の最後を飾る1台だからである。
1979年11月に発表。翌1980年2月から生産開始されたフィアット パンダは、戦後イタリアの国民車となった「ヌォーヴァ500」とその流れを組む「126」に代わって、フィアットのボトムレンジを担当することになったモデル。コストを徹底的に抑えるかたわら、さまざまなアイデアを駆使して極めて魅力的なベーシックカーに仕立てられていた。
ジウジアーロの最高傑作! フィアット・パンダとは?
パンダでは「イタルデザイン」社のジェルジェット・ジウジアーロ氏が、ボディ/インテリアのデザインだけでなく、基本コンセプトの立案からエンジニアリングに至るまで深く関与。エクステリアでは、すでにカーブドガラスが常識となっていた1970年代末にあって、ウインドスクリーンを含めてすべて平面ガラスを採用。ボディも一切の曲面を排し、機能美さえ漂う平面パネルだけで構成した。
いっぽうインテリアも、とくに最初期モデルのみの特徴ながら取り外し自由なハンモックシートと、そのデザインを応用したダッシュボード全幅にわたる大きな棚。左右に可動する灰皿など、実用的かつ魅力的なアイデアに満ちあふれるとともに、いかにもイタリアらしい洒脱なテキスタイルを巧みに使用。決して高級ではないが、極めてセンスに優れていた。
前輪を駆動するエンジンは、元来RRの126用ユニットを拡大、FFに転用した縦置き空冷直列2気筒OHV・652ccと、こちらも「127」から流用された横置き水冷直列4気筒OHV・903ccの2本立てでスタート。1986年からはフィアットの新世代エンジン、769ccから999ccに至る「ファイア(FIRE)」SOHCユニットへとスイッチされる。
その後も、燃料噴射化や1108ccへの拡大などが随時行われていったが、生産末期の2001年には、一部市場で併売されていたOHVの旧型ユニットや小排気量FIREはすべてラインアップから消え、1108cc+インジェクション仕様に一本化された。
ジェルジェット・ジウジアーロ氏は、のちに自身の最高傑作と称されることになるパンダで「現代のシトロエン2CV」を目指したといわれる。しかしパンダは、もはやお手本とした2CVに勝るとも劣らない存在として認知。2002年11月をもって生産を終えるまで、長らく高い商品力と人気を保ち続けたのだ。