年々オークション・シーンで注目度を上げているポルシェ914
2023年9月15日、RMサザビーズがスイス・サンモリッツで開催したオークションにおいてポルシェ「914」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
VWとポルシェが共同で市場に導入した「914」
ミッドシップの2シーターモデル、しかも着脱式のルーフを備えるタルガトップボディといえば、普通はアメリカを中心に、世界中の市場で高い人気を博すのがお決まりのコースだ。しかもその新車価格が比較的リーズナブルで、若いカスタマーにも手軽に買える数字であったとするならば。少なくともマーケティング的には失敗の可能性は格段に低くなるだろう。ブランドがフォルクスワーゲン(VW)やポルシェであったのならば、それはなおさらである。
しかし今から半世紀前に誕生した、VWとポルシェが共同で市場に導入した914というモデルはそうではなかった。そもそも914は、この両社にとってはきわめて重要な役割を与えられて誕生する計画を秘めたモデルだった。
VWにとっては、タイプ1(ビートル)とメカニズム的にはほとんど違いのない「カルマンギア」の後継車としての役割を果たすべきものだったし、一方のポルシェとしては「911」のエントリーモデルともいえる「912」の後継車を必要とするタイミングでスタートしたプロジェクト。
ミッドシップエンジンは2タイプの水平対向とされ、当初は4気筒エンジンを搭載したモデルの914をVWブランドで、またより高性能な6気筒エンジン搭載車の914/6はポルシェのブランドで販売されるプランだった。開発責任者は、かのフェルディナンド・ピエヒ。1968年3月にはプロトタイプも完成し、そのプロジェクトは順調に進んでいくと思われた。
だがその翌月、当時VWの会長職にあったハインリッヒ・ノルトホフが死去したことにより、914プロジェクトの状況は一気に暗転する。後任のクロト・ロッツはいわゆるポルシェ王朝とは無縁の人物。彼は914に関するすべての権利はVWにあるとし、ボディパネルを製作する金型や、その他の供給部品などの代金といった負担を、次々にポルシェに請求してきたのだった。
結局VWとポルシェは、VW-ポルシェ社という合弁会社を設立し、ポルシェは1970年に914と914/6を発売することに成功。販売価格は当初の計画から大幅に上昇し、実際には「911T」より若干安い程度にとどまるまでの数字に至っている。
914シリーズにはこれからますます熱い視線が注がれる?
今回RMサザビーズのサンモリッツ・オークションに、プライベート・コレクションのイセリ・コレクションから出品された914は、1973年式の「914 2.0」。フロントにバンパーガードが装備されたのは、1973年モデル以降の特徴である。
914は1970年のデビュー時には、1.7Lの4気筒エンジンと、2Lの6気筒エンジンを搭載してセールスが開始されているが、この1973年モデルでは99psの最高出力を発揮する2L仕様の水平対向4気筒エンジンが新採用。これは前年で販売を中止した914/6の事実上の後継車となったモデルだ。
実際の運動性能も素晴らしく、5速MTとの組み合わせで、0-100km/h加速を10.5秒で走り抜け、また最高速では190km/hを記録した。ボディサイズは全長3985mm×全幅1650mm×全高1230mm。乾燥重量はわずかに950kgというコンパクトなボディに、911譲りのフロント・ストラット式サスペンションを採用する。
またVW「タイプ4」譲りとなるトレーリングアーム式サスペンションを採用したほか、ミッドシップ車の走りをより魅力的に楽しめるシャシーを採用するなど、914シリーズは市場での評価以上にスポーティなモデルに進化を遂げていったのだ。
その914シリーズが、ここ年々オークション・シーンで注目度を上げている。参考までに今回のサンモリッツ・オークションでの落札価格は3万7950スイスフラン(邦貨換算約624万円)であった。
新車でスイスのチューリッヒにデリバリーされて以来のレストア時の写真、そしてリペアマニュアルとスペアパーツ・リストからなるポルシェ・ブックも添付されているのは大きな魅力だ。ポルシェ・ファンの新しい選択肢として、914シリーズにはこれからますます熱い視線が注がれそうな気配を感じる。