州をまたぐゴーストタウン「グレンリオ」と長い未舗装路
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。シカゴを出発して西に向かい、イリノイ州からミズーリ州、カンザス州、オクラホマ州、そして中間地点のテキサス州を経て、ニューメキシコ州へ入ります。まずは州境のゴーストタウンをご案内します。
大昔はルート66と鉄道が通って栄えたが……
ちょうど中間地点に当たるエイドリアンを過ぎると、マザー・ロードはニューメキシコ州へと突入する。その前に必ず立ち寄りたいのが州境をまたぐ、グレンリオという名前のゴーストタウンだ。
街が成立したのはルート66が完成する前の1903年、その後はロックアイランド鉄道の駅も設けられ、西と東を行き交う旅人の宿場町として繁栄する。それ以前は鉄道会社にちなんだ「ロックアイランド」という名前だったらしいが、1908年に改名され鉄道がなくなり、ゴーストタウン化した今も変わっていない。
交通の大動脈をふたつ擁したグレンリオだが、徐々に歴史の本流から外れていくことになる。まず1955年からは鉄道がグレンリオに停車しなくなり、インターステートの開通でクルマで立ち寄る人も激減した。当然ながらここでビジネスを営んでいた住人たちも街を出ざるを得ず、最後まで残っていた商店も1975年ごろにクローズしてしまう。ゴーストタウンになった正確な時期は不明だが、おそらく1980~1990年ごろではないだろうか。
テキサス州とニューメキシコ州、いったいどっち?
誰かにグレンリオの話を聞かれたときにいつも困るのは、テキサス州とニューメキシコ州のどちらに所属するかだ。Googleマップを見ると街であったエリアのほぼ中心に州境があり、ウィキペディアには「Glenrio, New Mexico and Texas」と記載。昔は税収などをめぐり論争が繰り広げられたが、資料を見る限りテキサス州というのが結論のようだ。
廃モーテルには東向きで「First Motel in TEXAS」の看板があり、そして反対の西向きは「Last Motel in TEXAS」だったそうだ。ただし現在のグレンリオ・ビジターセンターはニューメキシコ州。まだ帰属の議論は続いているのかもしれない。
かくして歴史の波間に消えたグレンリオだが、2007年には国家歴史登録財に指定される。もっとも見学できる施設があるわけでも、危険がないよう管理されているわけでもない。いつ崩壊しても不思議ではない建物もあるので、立ち寄る際はくれぐれも慎重に行動してほしい。
砂ぼこりを上げながらゆっくり走るのがまた楽しい
グレンリオ郊外からはルート66では珍しい、荒れた未舗装の路面がしばらく続く。パンクやスタックといった車両トラブルの心配はあるものの、少し離れたインターステートを急ぐクルマの音を聞きつつ、軽く砂ぼこりを上げながらゆっくり走るのがまた楽しいのだ。
道幅はタイトでところどころに小さな橋があり、西を向いた左手には線路を引いていた土盛りもある。上ってみるとレールこそ撤去されているものの、枕木がいたるところにゴロゴロと転がっていた。それらや崩壊した橋梁の脚をじっと眺めていると、交通の要衝として栄えていた当時の姿が思い浮かぶ。
ちなみに以前の回で紹介したジョン・スタインベックの小説を元にした、映画『怒りの葡萄』(1940年)のワンシーンもグレンリオで撮影されたとのことだ。また映画『カーズ』に登場したレーシング・ミュージアムは、ここの「リトル・フアレス・モーテル」がモデルになっている。
最近ニューメキシコ州側に、あるお店がオープン!?
私が何度となくグレンリオを訪れたなかで、他の人と出会ったことはたったの一度もない。しかし近年ちょっとした変化があったようだ。アメリカで嗜好用大麻の解禁が進んでいるのは報道されているとおりで、2021年4月12日からはニューメキシコ州でも大麻の使用が合法となった。自分の足で得た情報ではなく恐縮だが、現在グレンリオのニューメキシコ側には、大麻の販売店がオープンしているようだ。ただし隣接するテキサス州は現在の2023年11月も違法のまま。あえて合法と違法の境界線で大麻を売るのは、アメリカらしいジョークなんだと思いたい。
ところで未舗装路を使わないで大麻販売店「グレンリオ・スモークショップ」に行くなら、必然的にまだ解禁されていないテキサス州を短い区間だが通過することになる。所持・栽培・販売・輸送のすべてが禁止だから、お店の数メートル先で捕まるなんてケースがあるのかも?
■「ルート66旅」連載記事一覧はこちら