964型のポルシェ911は今後も目が話せない1台
2023年9月15日、RMサザビーズがスイス・サンモリッツで開催したオークションにおいてポルシェ「911RS N/GT」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
生産台数290台の希少なポルシェ
ポルシェが964世代の911で生産したモデルの中で、最もスパルタンな、そしてモータースポーツとの関連性を強く感じさせるモデルは何なのだろうか。この質問に対する答えを導き出すのはとても難しい。
たとえばカレラカップやカレラRSといった派生モデルは、そのままレースに使用できるほどのチューニングが施されたモデルであるし、実際にそれらは現在でもポルシェ・ファンの間では高い人気を誇っている。
だがRMサザビーズ社がサンモリッツ・オークションに出品してきた964型911は、そのカレラRSをも上まわるパフォーマンスと希少性を誇る一台。その正式な車名は「911カレラRS N/GT」だ。当時生産された台数はわずかに290台というから、911のファンにとって、それは羨望の眼差しを向けるに相応しい一台となる。
オークション出品時の走行距離は4万967km。サービスブックとポルシェのファクトリーデータシートも残るこのカレラRS N/GT。それはカレラカップのパフォーマンスと、カレラRSのオンロードでの実用性を兼ね備えるモデルとして企画されたものだった。
使用されるオプション・パッケージには「M003」のコードネームが与えられ、その内容はカレラRSと共通の3.6L水平対向6気筒エンジン(M64/03型)、5速MT、ZF製の左右非対称LSDに加え、RS用の薄型ガラス、アルミニウム製ボンネット、簡素化された配線ループ、軽量ドアガード、最小限のカーペットなどによる軽量化。
そしてキャビンを張り巡らすロールケージ、大型燃料タンク、ノーメックス製レーシングシートと6点式ハーネス、消火器、コックピットマウントのキルスイッチなどを追加したもの。その結果サーキットを走行するレーシングカーの特性をすべて備えた、驚異的なパフォーマンスを持つロードカーが完成したのだ。
各部が新品パーツに交換されている
さらに今回出品されたS/N:499125が特別である理由はほかにもある。1992年の2月11日にポルシェのシュツットガルド工場でブラック・オーバー・ブラックのボディカラーに、SM製の17インチ径マグネシウム製ホイールを組み合わせて完成し、同年3月19日には正規ディーラーのヘンリ・ルースAGから、スイス在住のファースト・オーナーに売却。その後の履歴もしっかりと残されており、現在のオドメーターは前で触れたとおりの数字を刻む。
そして最大のトピックスといえるのが、2016年1月にウィドバーグ・モータースポーツ社によっておこなわれたというメンテナンスで、クラッチやサスペンション、ブレーキパッドなどが新品に改められたほか、エンジンの排気量を3.6Lから3.8Lに拡大する作業も同時に行われたのだ。
これにより最高出力は、ノーマルの270psから332psにまで向上。オリジナルを好むファンには、この排気量拡大には賛否両論があるかもしれないが、そもそもRS N/GTは生産台数が非常に少なく、現存する車両は290台からさらに小さな数になるだろうから、コレクターズアイテムとしての価値が、エンジンのオリジナリティによってどう評価されるかが興味深いところだった。
そのような事情もあり注目を集めたのが、サンモリッツでの落札価格。その数字は25万2500スイスフラン(邦貨換算約4154万円)で、RMオークションによる予想落札価格は35万スイスフラン(同5765万円)と強気だっただけに、やや安めに感じるがそれでも十分にコレクターズアイテムとしての価値は反映されているように思える。もはやクラッシックとしての価値が見出されて久しい964型911。今後のオークションシーンでも目が離せない存在だ。