クラシックVWのドラッグレース大会で最人気のクラスを制覇
ドラッグレースというと大排気量のアメリカン・マッスルカーを想像する人も多いだろうが、じつはRRレイアウトで軽量なクラシック・フォルクスワーゲン(以下VW)で楽しんでいる人も多い。ほとんどオリジナルのスタイルでエンジンも非力な1200ccのまま、2023年のVWドラッグレースでクラス優勝を果たしたタイプ1、通称ビートルのオーナーに話を聞いてみた。
スタートダッシュの正確さを競うダイヤルイン・クラス
かつて日本では「ゼロヨン」とも呼ばれていたドラッグレースは、アメリカ発祥のモータースポーツ。1/4マイル(約400m)の加速タイムを競うシンプル・イズ・ベストなスタイルながら、参加クラスの選択や、2台並んでスタートシグナルを待つ際の駆け引きなど、マシンのチューニングだけではない奥深さを持っている。
2023年夏に開催されたクラシックVWのドラッグレース「VW Drag In 16th」は、モビリティリゾートもてぎのオーバルコースのホームストレートを使い、1/4マイルではなく1/8マイル(約200m)でタイムを競うハーフドラッグレースで、総勢55台のVWがエントリーした。
中でも最大の12台がエントリーしたのが「ダイヤルイン」と呼ばれるクラスだ。絶対的なスピードを競うのではなく、選手が事前に自分のクルマの目標タイムを申告しておき、それになるべく近いタイムで走った人が勝つというルールで、申告タイムより速く走ってしまうと「ブレイクアウト」=失格となる。
どれだけスムーズかつ正確にクルマを加速させるか、パワーよりテクニックが問われるルールであり、純正仕様でもチューンドエンジンでも平等にチャンスがあるため、最人気となっているわけだ。
1970年式ビートル・スタンダードで悲願の優勝
12台が競った2023年のダイヤルイン・クラスで優勝したのは、1970年式ビートル・スタンダードでチャレンジした香取 慶さんだ。
カスタムカー&キャルルック世代で、若い頃は茨城県のVWショップ「BIGPOWER」へ夜な夜な見に行っていたという。車歴は兄のお下がりの「ワンダーシビック」から始まり、VW「カルマンギア」、ビートル、「サニトラ」、「ミニ」など、数多くのクルマを乗り継いできたそうだ。
ドラッグレースへの挑戦は、2014年、今の愛車の前の1963年式ビートルで仙台ハイランドのジャパンドラッグレースウェイまで自走して参加したのが始まりとなる。
以来、予選敗退が続くもドラッグレースを続け、今回、ついに悲願の優勝を果たしたのだった。
あえて小排気量+スーパーチャージャーで勝負
VWでは大なり小なりローダウンするカスタムが一般的で、しかもレースに挑戦するとなれば高年式の大排気量エンジンを積んだり、排気量アップして馬力を追求する人が多いのだが、香取さんの1970年式ビートルは1200ccのスタンダードモデルで、排気量も車高もノーマルのまま。リアのエンジンルームに空気を入れるために装着されたリアクオーターのエアスクープが目を引くが、それとホイール&タイヤ以外は、ほぼ純正のスタイルをキープしている。
香取さんのビートルの最大のポイントは、この非力と言われる1200ccフラット4エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせたことにある。スバル「サンバー」用のアイシン製AMR300スーパーチャージャーを入手してVWスペシャルショップ「bugmax」(BIGPOWERの後継店)に持ち込み装着してもらい、カムシャフトをENGLE製W100に換装。トランスミッションは純正のままだ。
ターボではなくスーパーチャージャーを選択したため、低回転から安定して過給圧を得ることができ、スムーズな加速は街乗りで楽しめるのはもちろん、ドラッグレースで正確なタイムを狙うのにも打ってつけというわけだ。
また、アメリカでキャルルック旋風がVWカスタムを席巻するより前に存在した「ガッサー(Gasser)」と呼ばれるスタイルをリスペクトしている点も見逃せない。
家族と一緒にドラッグレースを楽しんでいく
その名も「TINY GASS」と名づけたビートルでVWのドラッグレースに参加し続け、ついにダイヤルイン・クラスでの優勝をもぎ取った香取さんに、勝利の秘訣を聞いてみた。
「愛する嫁がタイムを決めて申告してくれるので、それが決め手ですね。壊さずレースして楽しんで、壊さず帰るように心がけてます。歳をとっても家族で楽しんでいきたいですね。次の目標はトップエリミネーター(各クラスの勝者が競うダイヤルイン方式のトーナメント)を獲りたいと思います」
毎回、ドラッグレースに家族が一緒に来て声援を送ってくれた結果の優勝。小排気量+スーパーチャージャーの組み合わせは、クルマへの負担も最小限で、コストを抑えながらレースを楽しめるというメリットもありそうだ。
なお香取さんの本業は、つくば市の筑波大学近くに所在する「Cafe4(カフェヨン)」というハンバーグ屋さんだ。肉の良さを存分に味わえるハンバーグは衝撃的な美味しさなので、つくばに行くことがあれば寄ってみることをオススメする。