伝説の名車を再生産
ベントレーのオーダーメイドとコーチビルド部門のマリナーは戦前のモデルを再生産する特別な「コンティニュエーションシリーズ」を展開している。第1弾の4.5L「ブロワー」モデルの12台の生産が終了したことにより、第2弾の6.5L「スピード6」の実走行テストが始まった。このコンティニュエーションシリーズとは一体どのようなものなのだろうか?
コンティニュエーションシリーズとは?
ベントレーのオーダーメイドとコーチビルド部門のマリナーは「バカラル」や「バトゥール」のようなコーチビルドモデルの生産も行っているが、かつての伝説の名車を再生する作業を行っていることはあまり知られていない。第1弾の4.5L ブロワーは1929年にル・マン24時間レースで活躍したモデルの再生産版で、すべての部品をオリジナルモデルからバラし、採寸をし直し、当時の技法と現代の技術を織り交ぜながら12台の限定車として生産された。このコンティニュエーション ブロワーは公道を走れることはもちろん、厳しい検査プログラムに合格してヒストリック テクニカル パスポートを取得し、FIA公認のヒストリックカーイベントに出場する資格を得ることができた。
コンティニュエーション「スピード6」
スピード6はブロワーの成功を受けて第2弾のコンティニュエーションプログラムとして生産されるモデルである。
生産にあたり、ベントレーが所有しているスピード6 「GU409」と、1930年のル・マン24時間レースでサミー・デイヴィスとクライヴ・ダンフィーがドライブしたワークスのスピード6、「オールドナンバー3」をマスターモデルとして採用した。オールドナンバー3は、マリナーチームに寸法、素材、部品、最後のネジ、ナット、ボルトに至るまで貴重なデータを提供するために、オーナーから貸し出された車両だ。
また、W.O.ベントレーメモリアル財団からは当時チームが使用したオリジナルの設計図面やメモの80%相当分の提供を受けた。1929年と1930年のル・マン レースでの信頼性とパフォーマンスを向上させるため、ベントレーワークスチームによって行われた改造の数々もコンティニュエーションシリーズには反映されるという。
エンジンブロックの鋳造を含む600個以上の新しい部品が新しい6.5Lのレース仕様エンジンのために生産され、その時代には200馬力を発生していたという。最初のダイナモテストでは、コンティニュエーションシリーズの6.5Lエンジンは205馬力を記録した。 多くのクラシックなレーシングチームがそうしているように最新のエンジニアリング素材を使えば、より高い出力を達成することも可能だが、今回のコンティニュエーションシリーズの目的は、1930年の見た目と性能とまったく同じベントレーを生産することだったため、それ以上のパフォーマンスの向上は行っていない。
顧客のパーソナル仕様に10カ月かけて生産される
2023年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでデビューした後、スピード6 テスト車両は、8000kmのサーキット走行を通じて3万5000km分の実走行テストを達成するためのプログラムに入る。テスト時間と速度を徐々に上げてゆくインターバル方式によって、最も厳しい条件下での機能性と耐久性がチェックされるという。
顧客仕様車は1台あたり10カ月かけて生産され、2025年後半から納車が開始される予定だが、この間に、顧客はスピード6 ファクトリーワークスでパーソナルフィッティングサービスを受け、自分のモデルのステアリングを握って快適にコントロールできるようポジショニングの調整を行う。 これにより1920年代と同様、コンティニュエーション スピード6モデルのオーナーは、ベントレーの長距離走行の信頼性に全幅の信頼を寄せることができることになるのであろう。
大きな副産物
コンティニュエーションシリーズのプログラムの目的のひとつは、貴重な技術を次世代に継承することであり、これはすでに実を結んでいるという。マリナーの工場では、数十年の経験を持つ熟練職人が若い見習い職人とともに働く姿が見られ、未来の熟練職人の育成に役立っている。そのことからも、今後もさらなるコンティニュエーションシリーズの展開が予感できる。戦前のベントレーのみならず、ベントレーを代表する「Rタイプ コンチネンタル」などのモデルの復活も期待したい。
AMWノミカタ
1929年にル・マンで優勝したスピード6をドライブしたティム・バーキン卿は平均速度83マイル(約134km/h)で7分21秒という当時では驚異的なラップ新記録を樹立した。また2844kmというレース距離の記録も以降30年破られなかったという。つまりベントレーにとってこの輝かしいスピード6の再生産というプログラムは、単なる旧き良き時代のノスタルジーの追求だけではなく、ベントレーというブランドを確固たるものとした100年近く前の歴史への敬意を示すという意味合いも含まれていると考える。
大きく電動化に舵を切ったベントレーだが、このような特別なモデルを限られたカスタマーのみに提供してゆくプログラムを継続することができるのも、ラグジュアリーブランドならではの豊かさなのではないだろうか。