楽ナビは多くのドライバーを魅了する
乗用車への装着率は8割にも達すると言われるカーナビ。今やドライブに出掛けるのにカーナビなしではたどり着けないという人も多いのではないだろうか。そうした便利なカーナビだが、誰もが使えるカーナビの嚆矢といえば、パイオニアから1998年に登場したカロッツェリア「楽ナビ」だった。その開発コンセプトは「高性能なナビ機能を誰でも簡単に」。そんな歴史を振り返る記念イベントが2023年10月に東京・二子玉川にある「蔦谷家電」で開催された。ここではカーナビの裾野を広げるのに大きな役割を果たした楽ナビ25年の歴史を振り返ってみたい。
誰でも簡単に目的地設定が行える方法を開発
そもそもカーナビが広く普及し始めたのは、1990年に登場したGPSカーナビが登場したことがきっかけだ。GPS衛星からの信号を受信するだけで、自動的に自車位置を地図上に表示できるため、いちいち自車位置を設定する必要がない。この市販第一号モデルをパイオニアが発売すると、これに多くのカーナビメーカーが追従。さらに1995年頃になると、単に自車位置を表示するだけでなく目的地までのルートを案内するのが当たり前になり、その便利さからその人気は多くのユーザーに広まっていった。
しかし、カーナビの便利さが人気を呼ぶ一方で、そこには別の問題が生じることになる。目的地を探して設定することが“難しい”と感じる人が出始めるようになったのだ。当時のカーナビは目的地を探すのにメニューから入ってカテゴリーで探すのが一般的で、50音検索を行うにしても名称が完全一致しないと探せないことがほとんどだった。この状態が続けばカーナビは一部の新しもの好き向けのシステムに終わってしまうのではないか。そんな危機感を抱いたのがパイオニアのカーナビ開発チームだ。
誰でも簡単に目的地設定が行える方法は何か。その検討を重ねた結果、生み出されたのが「声」による目的地設定だった。
たとえばタクシーに乗車すると、運転士からは「どちらまで行きますか?」と聞かれ、客はその求めに応じて行き先を告げる。これでタクシーは目的地まで向かってくれる。このやり取りをカーナビで実現できれば、誰でもカーナビを使いこなすことができるのではないか。開発チームはそんな発想の元で初代楽ナビの開発を進めたのだ。
そして、出来上がった初代楽ナビ「AVIC-500」は、驚いたことに一番大きなボタンは「発話」であった。つまり、目的地設定はこのボタンを押して行き先を告げるだけ。それまで難しいと感じていた目的地設定は、音声認識という誰にでも使いこなせるインターフェースでこの課題解決へと結びつけた。スマホが普及した今なら、音声で目的地を探すのは当たり前となっているが、ガラケーしかないこの時代にこれを実現したのはまさに画期的なことだったのだ。
ただ、この時の楽ナビは読み出し速度も遅いCD-ROM仕様。認識精度や検索能力は現在のスマホとは比べものにならないほど低かった。それでも、「カーナビを誰でも使えるようにする」との「楽ナビ」のコンセプトはこの時に確立し、2年後に発売された楽ナビでは、「お出かけ」から「お帰り」までの操作をリモコン上で簡単に操作できる『Doリモコン』を採用。それ以降も、楽ナビは誰でも簡単に使えるカーナビとして、多くの人に受け入れられるようになっていったのだ。
多くの人の要望に応えられる幅広いラインナップを揃えた
21世紀が間近に迫った2000年になると楽ナビはCD-ROMからDVD-ROMへと記録メディアを転換する。そんな中でDVD楽ナビの第一号モデル「AVIC-DR1000」で、業界を揺るがす驚きの事件を引き起こす。それはDVD化したにもかかわらず、その販売価格をCD-ROM時代と大きく変わらないものとしたことだった。実はパイオニアには上級モデルとして「サイバーナビ」があり、この差別化のために楽ナビを低価格路線に当てはめたわけだが、それまで“DVDナビは高級機”としていた同業他社にとってこの動きは大きな脅威となったのだ。
その後に続くDVD楽ナビの第2世代モデル「AVIC-DR2000」では価格をさらに身近なものとすることで市販カーナビゲーション普及の起爆剤となった。使いやすさの他に、楽ナビは記録メディアもHDD→メモリーへと変遷。2DIN一体型ナビやポータブル型ナビを相次いで投入し、多くの人の要望に応えられる幅広いラインナップを揃えることになる。しかも、初代モデルから使いやすさを重視してきただけに、この相乗効果もあって人気は沸騰。楽ナビは業界をリードするデファクトスタンダードとしてほぼ決定づけられている。まさに楽ナビの地位固めはここに盤石なものになっていったのだ。
最新モデルは「Doメニュー」のさらなる進化
では、最新の楽ナビはどうなっているのか。最新モデルは2023年1月に発表されたメモリーナビとなっていて、そのラインナップはなんと15モデルにもおよび、今もなお幅広いラインナップぶりは健在だ。最新モデルの大きな特徴はインターフェースの進化で、レスポンスの大幅な上昇に加えて「Doメニュー」と呼ばれるメニュー画面が採用された。これは初代モデルのAVIC-500の流れを引き継いで進化したインターフェースと言っていい機能でもある。
その「Doメニュー」の中央には、ドライブ中の使用頻度が高い施設を「ダイレクト周辺検索」するアイコン3つ(駐車場・ガソリンスタンド・コンビニエンスストア)を配置。その上には「お出かけ検索」の入力ウインドウがあり、左側は再生中のAVソース情報、その下には任意で設定できる4つのショートカットアイコンが並ぶ。つまり、したいことが一目でわかるそんな造り込みをこのインターフェースからは感じ取れるものとなっているのだ。
そして、最新の楽ナビならではの大きなトピックとなっているのが、コネクテッドへの本格対応だ。これまでも楽ナビは音声認識による目的地検索や、オンデマンドVICS、駐車場の満空情報などでオンライン化を実現していたが、最新モデルではサイバーナビに続いて車載用Wi-Fiに楽ナビとして初対応。音声認識には非対応であるものの、目的地検索でもクラウドとの連携によって思いついたキーワードを手入力によって対応するなど、その使い勝手は大幅に高められている。
また、オンラインによる地図データ更新を可能にしたのも見逃せないポイントだ。これまで車載カーナビは地図データの更新が難しいとされてきたが、最新の楽ナビではこれを自動化。最新データの確認からデータのダウンロード・更新まで、ユーザーは特に何もしなくても自動で行ってくれるため、スマホのナビアプリと比べても遜色ないものになっている。さらに、オンデマンドVICSやスマートループによる渋滞情報を加味したルートを示し、これが高品質なルートの案内につながっているのはパイオニアならではの魅力でもある。
楽ナビはデビュー当時のコンセプトとして、より多くの人に高機能・高性能を提供することを目標に、カーナビの歴史を変えてきた存在でもある。それが今やコネクテッド化を果たすことで、常に最新の情報に基づいたカーナビ機能が利用できるように大きく進化した。それは楽ナビが誕生して25年にわたってユーザーの声に応えてきた歴史でもある。そんな楽ナビだけに、生み出されたノウハウは最新技術によってさらなる進化を遂げていくだろう。今後も楽ナビは多くのドライバーを魅了し続けてくれるに違いない。