生産台数が350台しかないレアなモデル
2023年11月25日、RMサザビーズがドイツ・ミュンヘンで開催したオークションにおいてメルセデス・ベンツ「SL65 AMG ブラックシリーズ」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
日本には12台が正規輸入された
メルセデス・ベンツは、それまでモータースポーツの分野ではすでに提携関係にあったAMGの株式を、1999年末に取得、その関係を一般的なロードカーにも波及させていくことを決断した。メルセデス・ベンツが求めたのは、もちろんこれまでAMGがレース活動の中で得た、さまざまな技術的ノウハウを活用し、よりパワフルでエキサイティングなスリー・ポインテッド・スターを掲げるスポーツモデルを生み出すこと。
2005年にはAMGはメルセデス・AMG社として完全子会社化され、それから20年にも迫る時を経て、AMGの称号はメルセデス・ベンツ車のラインアップの中で欠かせない存在となっている。
ここで紹介するのは、2008年にメルセデス・ベンツとメルセデスAMGの手によって生み出された「SL65 AMG ブラック・シリーズ」。メルセデスAMGにとってブラック・シリーズというサブネームはSLKやCLKですでにお馴染みのもので、AMGモデルのさらに延長線上にある究極のパフォーマンスを表現したモデルの証である。
そしてもちろんSL65AMG ブラック・シリーズも、SL65AMGをベースに、メルセデスAMGが独自のチューニングを施し、さらなる高性能を得たモデルだ。生産台数はわずかに350台。ちなみに日本には12台が正規輸入されたという記録が残されている。
グラマラスな前後フェンダーの造形からも、このモデルがただのSLではないことは容易に想像できるところだが、それに加えてドアパネルを除くボディパネルのほとんどをカーボン製としたことで、SL65AMGに対してマイナス250kgに相当する1870kgの車重を実現しているのも大きな特長だ。
同時にリトラクタブル・ハードトップの機能を廃し、キャビン後方にはロールケージをインストールするなど、剛性確保のための改良作業は実にストイックだ。とはいえキャビンの仕上がりは、レーシングカーのように殺風景なものではない。そこはメルセデス・ベンツの誇る伝統の高級スポーツモデルらしく、ドアのインナーパネルにカーボンが使用されるほかは、ほかのAMGモデルと同様に高級な内装が採用されている。
搭載されるエンジンは、6LのV型12気筒ツインターボ。最高出力はSL65AMGの612psから670psに引き上げられ、これに5速AT(AMGスピードシフトプラス)を組み合わせる。サスペンションはフロントが4リンク、リアはマルチリンクという構成で、タイヤはフロント19インチ、リア20インチのほかに、前後とも19インチというセットを選択することもできた。0−100km/h加速は3.8秒、最高速は電子制御で250km/h、もしくは320km/hに制限されたというから、その速さはまさに本物だったのだ。
オーストリアに納入された4台のうちの1台
RMサザビーズのミュンヘン・オークションに出品されたSL65AMGブラック・シリーズは2009年6月25日にファクトリーでの生産が終了し、そのままウィーンのメルセデス・ベンツ正規ディーラーであるヴィーゼンタールを通じて、オーストリア在住の最初で唯一のオーナーに納車された個体だ。
オーストリアには、新車で4台のSL65AMGブラック・シリーズがデリバリーされたというが、ほかのモデルはオーストリア国内での消息はつかめていない。出品車はメタリック仕上げのイリジウム・シルバーで構成され、エクスクルーシブ・レザー・パッケージでトリミングされたブラックと、アンスラサイトの組み合わせによる、とても魅力的なインテリアを持っている。オプションでもAMGパフォーマンス・ステアリング・ホイールやプレミアム・サウンド・システムなど、新車時から充実したリストを誇る。
2023年4月にはウィーン郊外のバーデンにあるメルセデス・ベンツの公認工場で新品タイヤへの交換を含む1万1929ユーロ(邦貨換算約193万円)相当の整備を受け、このミュンヘン・オークションに姿を現した。RMサザビーズの予想落札価格は25万〜35万ユーロ(同4050万円〜5670万円)というものだったが、落札価格はそれを超え、36万5000ユーロ(同5910万円)での決着ということになった。わずかに2351kmという走行距離も、その落札価格を大きく引き上げる理由となったことは確かだ。