手間と情熱を考えるとバーゲンプライス!?
1977年に設立されたブラバスは、メルセデス・ベンツをベースとしたチューニング・カーの開発と生産で、大きな成功を収めたメーカーだ。そのセールス・マーケットはすでに全世界へと拡大しており、日本でもメルセデス・チューナーとしての知名度は、常にナンバー・ワンを誇るほどの存在。ここではそのブラバスが製作に関係し、RMサザビーズのミュンヘン・オークションに出品された、1台のスパルタンかつタフなモデルを紹介することにしよう。
劇的に変わったG63
直近では、2023年9月にドイツのアウトツェントラム・ハーブ社によって整備を受けたというこのモデルは、走行距離もまだ1万6290km。そもそものベースは、メルセデスAMGが2015年12月17日にラインオフした「G63」で、翌2016年1月4日に、それは最初のオーナーへとデリバリーされている。
オブシディアン・ブラックメタリックのボディカラーに、ベージュレザーのインテリア。メルセデスAMGの仕事らしく、美しく、またラグジュアリーな雰囲気に仕上げられたG63。そのオーナーがブラバスへとこのG63を持ち込んだのが、すべてのストーリーの始まりだった。
オーナーが求めたのはさらなるパワーにほかならなかった。ブラバスではさまざまなステージのエンジン・チューニング・プログラムが用意されていたが、彼がチョイスしたのは、その中でも当時最も過激な仕様だった、メルセデスAMG製のV型8気筒エンジンの排気量を5.5Lから5.9Lへと拡大し、850psをわずかに下回る最高出力を発揮するもの。
さらにブラバスではこのエンジン・チューニングに加え、独自のヘッドライトやデイタイム・ランニングライト、ブラバスのエンブレム付きフロント・グリル、ルーフスポイラーなどが装着され、エクステリアもさらにスポーティなフィニッシュとなった。その時にブラバスが装着した装備の詳細は、同社が発行する証明書に残されており、今回のオークションではそれも含め販売される。
850psに近い最高出力と、スポーティなアピアランスを得たG63。普通のオーナーならばここで十分に満足するところなのだろうが、今回のストーリーにはまだまだ続きがある。2020年3月、オーナーはさらに前衛的なGクラスへと変貌を遂げさせるために、オーストリアのグラーツ近郊にあるGワゴン・カー・テクノロジー社を訪れ、そのG63の6輪車への改造を依頼するのだ。
現在も残されているその時の請求書によれば、6輪化のために必要とされた費用は実に60万ユーロ(当時のレートで約7200万円)以上。その後2021年には現在のオーナーがそれを譲り受け、今回ミュンヘン・オークションに姿を現した。
このユニークな、そして悪路の走破性に関してはタフなことこのうえないG63 AMG 6×6は、2023年9月15日にアウトツェントラム・ハーブ社によるサービスが実施され、その詳細を記載したサービスブックも付属。コンディションの良さに加えて、そのような事情もあったのだろう、オークションでは57万8750ユーロ(邦貨換算約9380万円)で見事に落札されることとなった。地球上のさまざまな地で冒険を楽しみたい人にとって、このモデルほど有能な相棒はほかにはいないのではないだろうか。