知られざるユタ州の絶景ポイントへ大きく寄り道してみよう
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。イリノイ州シカゴから西に向かい、今回はニューメキシコ州西部の都市ギャラップから、ルート66を外れて大きく北上して寄り道を。ユタ州の絶景の地「ミューリー・ポイント」を紹介します。
グランドサークルの酷道を神経をすり減らしながらひた走る
地球の歴史と呼ばれる絶景が各地に点在するアメリカ。グランドキャニオンやヨセミテなど著名な国立公園だけじゃなく、アクセスが悪かったり近隣に宿泊できる街がないせいで、知名度こそ低いものの心を奪われる景色は数多くある。なかでも私が一番衝撃を受けたのは、ルート66のギャラップから3時間半、ユタ州の南東部に位置するミューリー・ポイントと呼ばれる大眺望だ。
教えてくれたのは自分にとって白馬の大塚浩司さんと並ぶルート66の大先輩で、旅の話で盛り上がっていたところ「だいぶ遠まわりだけど行ってみて欲しい」と。この人が言うんだからよっぽど凄いに違いないはずと、翌年の旅でギャラップからルート66を外れて北上した。
ミューリー・ポイントは数々の国立公園や国立モニュメントがある「グランドサークル」内にあり、標高1920mからサン・ファン川による侵食が作り出した大峡谷を見下ろ場せる場所。麓のバレー・オブ・ザ・ゴッズ(神々の峡谷)を横目に、モキ・ダグウェイという未舗装のワインディングに入る。街灯どころかガードレールもカーブミラーすらない道路で、高低差が350m近い大断崖をひたすら上り続けるのだ。
路面は整地こそされているがスリッピーな細かい砂で、昼間はライトが見えず対向車の存在も分かりにくい。アメリカの酷道にはだいぶ慣れていると自負する私でも緊張しっぱなし、大先輩の「行くまでの道がまた怖いんだ」との言葉が何度も頭に響き渡る。走る距離でいえば5kmほどにすぎないが、とにかく神経をすり減らしまくる道だった。
人知から遠く離れた「世界の果て」の風景
道の終わりがすなわちミューリー・ポイントで、駐車場もなければビジターセンターもない。私が行ったのはオフシーズンだったこともあり、文字どおりひとっ子ひとりいない状況だった。
クルマを停めて大きな岩の上を歩いて眺望が開けたときの衝撃は、初めて訪れて10年ほどが経過した現在も鮮烈に記憶している。グランドキャニオンやキャニオンランズとはまた違う大峡谷、遙か遠くに見えるナバホ族の聖地モニュメント・バレーのビュート、そして人間どころか動物の気配すら皆無で風の音しか聞こえない寂しさ。
陳腐な表現かもしれないが「世界の果て」があるとすれば、ミューリー・ポイントがまさにそれじゃないかと思ってしまうほどだ。感動よりも「畏怖」という表現のほうが、この雰囲気には適しているかもしれない。
柵も監視カメラもなく管理する人もおらず、転落しても発見されることすら難しそう。私よりはるかにアメリカに精通している件の大先輩が、ルート66を外れてでも行くべきと教えてくれた理由を、視覚だけじゃなく心も含め全身全霊で感じることができた。
しばらく写真を撮るのも忘れて座り込み、太陽が傾きかけたころ我に帰って撤収。後ろ髪を引かれる思いは強かったが、あの道を暗闇のなか下るのは恐怖でしかない。モキ・ダグウェイを抜けて舗装路に出たときは、あの世から現世へ引き戻されたような気分だった。
ミューリー・ポイントという存在を教えてくれた大先輩は、病のため残念ながら2018年に亡くなってしまったが、今も画像を見るたび交わした会話や人柄のよさを思い出す。コロナ禍でアメリカの旅を中断してから早くも丸4年、次は久々にミューリー・ポイントへも足を運んでみたい。
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