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水陸両用まるでボンドカーの「770」が約950万円で落札! ボートとクルマを別々に買うよりリーズナブルな「アンフィカー」とは

世界一有名な水陸両用レジャーヴィークル、オークションに登場

アメリカの冬の避寒リゾート地として知られている、アリゾナ州スコッツデールおよびその近隣の大都市フェニックスでは、毎年1月下旬に複数のオークションハウスが大規模なオークションを一堂に開催。その年のクラシックカー/コレクターズ市場を占う、年始の恒例イベントとなっている。なかでも、クラシックカー/コレクターズカーのオークションハウスとしては最大手と目されるRMサザビーズ北米本社がフェニックス市内で開催する「ARIZONA」は、規模・内容ともに、1月のアリゾナのオークション群の中でも最上級のものとして知られる。今回は2024年版の出品車両の中から、古今東西もっとも有名な民生用水陸両用車「アンフィカー」をピックアップ。その概要とオークションレビューをお届けしよう。

史上初の一般向け水陸両用車「アンフィカー770」とは?

BMWの社主として知られる「クヴァント・グループ」を後ろ盾とし、旧西ドイツのカールスルーエにて2500万ドルもの巨費と、15年もの歳月をかけて開発されたという「アンフィカー770」は、1961年のニューヨーク国際オートショーにて、一般向けに販売される世界初の完全水陸両用車としてデビューした。

開発を主導したハンス・トリッペルは、第二次大戦前から水陸両用車を開発し、大戦中には「トリッペルSG6」という水陸両用車をドイツ国軍に納入した人物だったとのことである。

民生用のレジャーカーとして、1957年式「フォード・サンダーバード」と小型モーターボートを掛け合わせたようなスタイリングとされたアンフィカー770は、英国の小型大衆車「トライアンフ・ヘラルド」用の直列4気筒OHV1147cc・43psのエンジンをリアに搭載して後輪を駆動。陸上では、同時代のヨーロッパの小型車たちと同レベルの走行性能を発揮した。

ボート乗り場に着くと、ドアの特殊な水密シールを所定の位置にロックし、フロントのラゲッジリッドをロックして、ゆっくりと水中に進入する。そしてレバーでエンジンの動力をリアエンド底部のツインプロペラに導き、舵の役割を果たす前輪を使って「キャプテン(船長)」が操縦する。

また、水中でギヤをリバースに入れるとプロペラが逆回転し、通常のモーターボートと同じようにブレーキの役割を果たす。岸のスロープに戻る際には、後輪の駆動力とプロペラ推進力の両方を同時に操作することができた。

アンフィカーは当初2万台の生産を予定し、生産に必要なコンポーネンツも集めていたという。ところが、価格がかなり高価だったこと、信頼性にもかなり問題が発生していたことから販売は低迷。1961年から1968年の間に生産されたのは、わずか3878台(ほかに諸説あり)に留まったといわれている。

それでも、世界初にして今なお実例のほとんどない市販水陸両用車であるというアイコン性にくわえて、結果として希少価値を帯びたことも相まって、とくに21世紀に入ったのちは、多くの自動車コレクターがガレージに収めたいクルマ(兼モーターボート)となっているのだ。

リーズナブルな(?)約950万円で落札

このほどRMサザビーズ「ARIZONA 2024」オークションに出品されたアンフィカー770は、発売当時4色が設定されていたファクトリーカラーのうちのひとつ、「ラグーンブルー」で美しく仕上げられており、外装のレストアから約15年が経過した現在でも、ボディワークは非常にしっかりとしたコンディションを保っている。

ボディパネル、特にフロアの錆びや腐食に悩まされ、多くの個体が失われてしまったとされるアンフィカーとしては、これはとても重要視されるべきポイントであろう。

最近では、8年来にわたりこのクルマを所有してきた熱心な現オーナーによって、オンタリオ州南西部の海域でデモンストレーション走行が行われ、「オンショア」でも「オフショア」でも良好なパフォーマンスを発揮したばかりとのことである。

また、ここ数年の間にクロームの一部が再メッキされたほか、タイヤ2本、ブレーキとブレーキライン、ベアリング、排水ビルジポンプ(1つは自動式、もう1つは手動式)、スターターモーターと燃料ポンプも新品に交換。その際の請求書も、今回の出品で添付されるファイルに残っている。

くわえて、アンフィカー用の部品はカリフォルニア州の「ゴードン・インポート」社から今でも簡単に入手できるそうだが、この個体にはオリジナルのマニュアルにパーツブック、広告、ツールキット、オール2本、アンカー、消火器が付属しているとの由である。

このオークション出品に際して、RMサザビーズ北米本社は現オーナーとの協議のうえ、7万ドル~9万ドルのエスティメートを設定。その上で「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格は設定しなかった。

この「リザーヴなし」という出品スタイルは金額を問わず確実に落札されることから、特に人気モデルではオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうというリスクも二律背反的に持ち合わせる。

そして迎えた競売では、エスティメート下限を少し割り込む6万4400ドル、日本円にして約950万円で落札されることになった。

超レア車ゆえに、国際マーケットにおける販売事例も少ないアンフィカーながら、数年前には10万ドル前後での取引もいくつか行われていた。そのため今回のオークション結果は落札者にとってはリーズナブル。そして出品者にとっては、いささか不本意なものだったと考えられる。

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