フェラリスタなら喉から手が出るほど欲しい激レアアイテム
2024年1月31日、RMサザビーズがフランス・パリで開催したオークションにおいてフェラーリ「FXX K ウインドウトンネルモデル」が出品されました。同車について振り返りながらお伝えします。
新型車の開発には必要不可欠な実験モデル
1990年代のはじめ、F1GPにおいて満足のいく戦績が得られなかったスクーデリア・フェラーリは、再びチャンピオンシップを争うための戦闘力を得るために、より多くの予算を投じていくことになる。
その象徴ともいえるものが、サーキットでの実走行テストの時間が制限されている中で重要性を大いに増していた風洞実験装置で、それは新型車の開発には必要不可欠なものになっているといってもよい。
風洞実験装置は路面を走行するクルマの周囲を空気がどのように流れるのかを可視化、あるいは検証するために必要となる設備で、理論上は実車と同サイズであっても、1/2サイズでも、あるいは1/3サイズでも同様の測定結果が得られるはずなのだが、じっさいにはフルサイズのモデルで実験できることが理想であるのは当然だ。したがってフェラーリもF1マシンをはじめ、各種ロードカーのフルサイズでの実験を可能とする風洞の建設を開始した。
風洞実験装置を設ける直接の目的はすでに説明したとおりだが、フェラーリはそれをただの建築物としてデザインすることはなかった。1988年に完成したそれは、イタリアの、そして世界で最も有名な建築家ともいえるレンツォ・ピアノの設計によるもので、施設の構造物をそのテクニカルなコンポーネントが外観からも見えるようデザインされたもの。
もちろんフルサイズモデルの実験も可能で、この場合の最高速は150km/h、一方スケールモデルでは250km/hまでの状態をシミュレーションできると、この風洞実験装置が完成した時には発表されていた。
今回RMサザビーズがパリ・オークションに出品したこのモデルは、本来フェラーリからは門外不出であるはずの貴重な風洞実験モデルだ。
フェラーリで製作された本物の風洞実験用モデル
このモデルはサーキット走行専用車の「FXX K」の正常進化型、「FXX K EVO」の開発に使用されたもの。
ちなみにFXX Kはその車名からも想像できるように、2005年に発表されたFXXの実質的な後継車にあたるモデルで、車名の最後に付されるKの文字は、フェラーリでは「HY-KERS」と呼ばれる運動エネルギー回生システムが搭載されていることを示している。
ミッドに搭載されるエンジンは「ラ フェラーリ」の6262cc版V型12気筒をベースに860psの最高出力と720Nmの最大トルクを発揮するものだが、これにHY-KERSによるエクストラが加わり、システム全体では1050ps、900Nmという数字をスペックシートには掲げていた。
ここからさらなる正常進化を遂げたFXX K EVOは、2017年に発表されたモデルだが、その特徴はおもにエアロダイナミクスの改善にあり、まさにフェラーリの風洞実験装置がさらなるパフォーマンスをカスタマーに提供した実例になる。
なおこのEVOモデルへのバージョンアップは、FXX Kへの交換パーツの取り付けのほか、最初からFXX K EVOとして生産されたものも若干数も存在しているという。
パリ・オークションに姿を現したこのスケールモデルは、実車の1/2サイズで製作されたもので、もちろんフェラーリで製作された本物の風洞実験用モデルである。開発の最終段階で製作された3台目のモデルということもあり、そのディテールはFXX K EVOのそれにほぼ等しい。参考までにEVOではフロントエンドの変更や、大型のリアウイング、アンダーボディ、ディフューザーなどの改良によってダウンフォースは23%増という結果を残している。
1100mm×2600mmのベースプレート上に置かれたブラックのスケールモデル。RMサザビーズが提示した28万~32万ユーロ(邦貨換算約4480万円~5120万円)という予想落札価格を目にした時には、さすがに驚きを隠せなかったが、そこはやはり世界中にスーパーリッチなコレクターが多く存在するのがフェラーリの世界。じつにその2倍以上となる66万ユーロ(同1億560万円)という価格で、落札された。まさに驚異のリザルトである。