生産台数はわずか5台の希少モデル
2024年2月24日にアイコニック オークショニアーズがイギリスのシルバーストン・サーキットで開催したオークションにおいて三菱「ランサーエボリューション VI RSトミー・マキネン・エディション モンテカルロエディション」が出品されました。同車はトミー・マキネン・エディションをベースにラリーアートUKが手がけた限定モデル「モンテカルロ・エディション」です。驚きの落札価格の理由とは。
1990年代にラリーで活躍したランエボ
1911年に第1回が開催された有名なラリー・モンテカルロを筆頭に、世界各地で開催されるラリー競技。その長い歴史の中でさまざまな名車が名勝負を繰り広げてきたわけだが、われわれ日本のファンにとって今なお記憶に新しいのが1990年代後半の世界ラリー選手権(WRC)だろう。それまでの王者だったイタリアのランチアに代わり、この時代はスバル、トヨタ、日産などの国産車メーカーが台頭、激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。
なかでも強烈な印象を残したのが三菱だ。1970年代の初代「ランサー」の時代から国際ラリーへ積極的に参戦してきた三菱が、「ギャランVR-4」に代わって1992年にリリースしたのが「ランサーエボリューション」。その名の通りギャランよりひとまわりコンパクトなボディに、クラス最強の250ps/6000rpmを発生するエンジンとフルタイム4WDの組み合わせ。市販車のデビュー翌年、1993年シーズンからWRCに投入された「ランエボ」は一戦ごとに進化と熟成を繰り返し、やがて世界最強のラリーカーへと育っていく。
そしてWRCにおける「ランエボ栄光の歴史」のハイライトと言えば、やはり1996年から1999年にかけて、エース・ドライバーのトミー・マキネンが達成した「世界ラリー選手権における史上初の4年連続ドライバー・チャンピオン」だろう。
この時代、メーカーに与えられるマニファクチャラー・チャンピオンシップは、最強のライバルだったスバル、そしてトヨタ、フォードなどが獲得する年もあったが、ことドライバーの年間王者に関して言えば、ランエボVIを駆るトミー・マキネンの速さは圧倒的だった。そんなランエボVIとトミー・マキネンの偉業を讃える形で1999年末に限定モデルとして発表されたのが、三菱ランサーエボリューションVI トミー・マキネン・エディションだった。ロードユースにも適したGSRと、快適装備を端折ったスパルタンなRSの2グレードが用意されたこのモデルは翌2000年の1月から全国のギャラン系販売会社で販売されたわけだが、今回ご紹介するランエボはその「三菱謹製カタログ・モデル」とはひと味異なる。
5台目に作られたモデルはワンオーナー車だった
クラシックカーや新旧のレーシングマシン、ラリーカーなど、モーター系アイテムを得意とする英国のオークション・ハウス「アイコニック・オークショニアーズ(Iconic Auctioneers)」。さる2024年2月24日、同社がシルバーストーン・サーキットの一角で開催したオークション会場に出展されたこの個体は、トミー・マキネンがモンテカルロ・ラリーで前人未到の3勝目を挙げたことを記念して、ラリーアートUKが手がけた現地独自の限定モデルなのだ。
ベースはランエボVIの競技用ベースグレードのRS。このモデルを、トニー・コックスが率いるラリーアート・テクニカル・チームがエンジンから足まわりまで徹底的に高性能化。ラリーアートUK謹製の「三菱ランサー エボリューションVI RSトミー・マキネン・エディション モンテカルロ・エディション」として限定販売したというわけだ。
当初は12台の「生産」が予定されていたと言われるが、作られたのはわずか5台のみ。その5台中最後に作られた5台目となる、この1991年式三菱ランサーエボリューションVI RSトミ・マキネン・エディション モンテカルロ・エディションは、走行距離わずか3497マイル(約5628km)のワンオーナーカー。ほぼ新車と言っても差し支えないこの希少なエボVIは、今回のオークションで9万9000ポンド(邦貨換算約約1890万円)で落札され、2人目のオーナーの元へ嫁いでいった。
モータースポーツから市販車の販売台数まで、メーカー同士がつねに切磋琢磨を続ける自動車の世界。それぞれのジャンルでそのトップランナーは目まぐるしく入れ替わり続けるが、ある時代に偉大な「コト」を成し遂げたメーカー、クルマ、あるいはドライバーは、自動車史にその名を永遠に刻むこととなる。そんな稀有な一例が、三菱のランサーエボリューションであり、トミー・マキネンなのだ。