第2回目となる沖縄のクラシックカーラリーが開催
イタリアの生ける伝説的イベント「ミッレ・ミリア」に端を発する、レギュラリティ・ラン(タイムラリー)形式のクラシックカーラリーは、20世紀末から日本にも波及し、現在では国内の津々浦々で開催されています。観光イベントや、時には町興しイベントとしても人気を博すこれらのラリーでは、美しい景観の中を、それぞれの愛車であるクラシックカーとともに走るというのが最高の醍醐味となっていますが、なかでも「美ら島」沖縄を舞台として、こと美しさの面では国内随一とも言いたくなるイベントが存在します。その名は「ジーロ・デッリゾラ沖縄(Giro dell’Isola OKINAWA)」。2024年3月8~10日に、第2回目として開催された美しきクラシックカーラリーに完全密着してレポートします。
沖縄を島巡りするラリーに、日本国内およびイタリアから31台がエントリー
イベント名として掲げられた「Giro dell’Isola」とは、この種のラリーの本場、あるいは聖地とも言うべきイタリアの言葉で「島巡り」を意味するとのこと。
主催者である矢口可南子さんいわく、「沖縄の美しい海と豊かな自然、琉球王国の時代から独自の歴史・文化を育んできた沖縄の魅力を、クラシックカーラリーというかたちを通じて伝えたい」との熱意が込められているという。
その熱い想いはエントラント(参加者)たちにも少しずつ伝わっているようで、昨年の第1回のエントリー車両は14台とやや少なめだったものの、第2回となる今年は31台と2倍以上となった。この種のイベントで多くを占める、首都圏や東海・関西圏在住のエントラントにとっては少々遠方である沖縄を舞台とし、愛車を長距離フェリーで輸送するという手間を考慮すれば、なかなかの参加台数といえるだろう。
くわえて、エントリー車両のバラエティの豊富さや質の高さは特筆すべきもので、古くは1936年式のベントレー「4 1/2リッター」にはじまり、往年のモンテカルロ・ラリーを連想させるようなシトロエン「DS」軍団も参戦。また新しいところでは、フェラーリの「328GTS」やテスタロッサ。くわえて、オーガナイザーの特別承認によるランボルギーニ「ウラカン スパイダー」やモーガン「プラス6」など現代車の姿も見られた。
いっぽう、1941年式キャデラック「60スペシャル フリートウッド」や、昨年もエントリーしたシボレー「コルベット コンバーチブル」にダッジ「チャージャー」、あるいはシボレー「カマロ」にポンティアック「ファイアバード」など、沖縄にはとてもよく似合うアメリカンクラシックたちも大挙エントリーして、イベントを大いに盛り上げていた。
さらに今回は、昨年秋に姉妹イベントとなることが決定したイタリア・シチリアの名門クラシックカーラリー「ジーロ・ディ・シチリア(Giro di Sicilia)」から、その主催団体会長であるアントニーノ・アウチェッロ氏とその仲間たちもゲストとして正式エントリー。とくにアウチェッロ氏は、日本でレンタルしたアルファ ロメオ「ジュリエッタ スパイダー」に搭乗することになった。
「大人の修学旅行」をテーマに沖縄という土地への理解を深める3日間
「ジーロ・デッリゾラ沖縄」で特筆すべきは、走行ルートの美しさが国内イベントでは最高ランクに属することである。大海を横目に走るシーサイドコースはもちろん、それ以外の内陸部のどこを走っても風光明媚な情景が眼前に広がる。もちろん第2回を迎えた今回も、沖縄の風光明媚な景色を存分に楽しめるよう、3日間ともに極上のロケーションが選りすぐられていた。
まず大会初日となる3月8日(金)は「宜野湾マリーナ」の特設会場からスタートしたのち、ラリーの要であるP.C.競技(一定区間の通過タイムを0.1秒単位で競う競技)が、沖縄では数少ない常設サーキット「モータースポーツマルチフィールド沖縄」にて行われる。
そのあとは、世界遺産「勝連城跡」を一望できる広場に、エントリー車両全車をずらりと並べてBBQランチを楽しんだのち、海に面した「海中道路ロードパーク」で再びのP.C.競技。そして「ぬちまーす製塩ファクトリー」なども訪ねた。
いっぽう2日目となる9日(土)には、今回のイベントでもっとも注目すべき行程が含まれていた。このラリーでは単にドライブを楽しみ、P.C.競技でスキルを競うだけにはとどまらず、沖縄の歴史にも触れてほしいとするオーガナイザーの熱意から、「平和祈念公園」や「糸数アブチラガマ」にて公式ガイドつきツアーに参加。第二次世界大戦における沖縄戦の惨禍に、想いを馳せることになった。しかも、そのあとには在留米軍の嘉手納基地を訪れるなど、過去と現在の沖縄の現実を今いちど実感する機会が設けられていたのだ。
さらに、この日の夜には沖縄を代表する大人気観光スポット「美ら海水族館」の巨大水槽前でガラ・ディナーが開催され、ジンベエザメやマンタを眺めつつの夕食を楽しみながら、沖縄の夜は更けていった。
そして最終日となる10日(日)は、水族館に隣接する宿泊ホテルからスタート。本部近辺の「平和創造の森」公園で最終P.C.競技を終えたのち、世界遺産「今帰仁城跡」を見学。古宇利島でのランチタイムを経て、宜野湾マリーナのゴールに向かうことになった。
今回も、交通渋滞とは無縁に近い巧みなコース設定が功を奏して、クラシックカーにとっても快適なドライブ環境だったからだろうか、3日間のラリーでは大きなトラブルに見舞われることもなく、日曜日午後には、全エントリー車両とドライバー/コ・ドライバーたちが、満面の笑顔でゴールへと戻ってきた。
また、多くのエントラントたちから沖縄という土地への理解と愛が深まったことを聞かされ、このイベントの趣旨が間違いなく共有されていたことを実感したのである。
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蛇足ながら、筆者は1997年にイタリア本国のミッレ・ミリアを初めて訪れたのち、日本国内・海外を問わず数多くのクラシックカーラリーを取材してきたほか、自らドライバーおよびコ・ドライバーとしてエントリーしたこともあるのだが、それらの経験を踏まえてみても「ジーロ・デッリゾラ沖縄」の楽しさは国内最上級のものと断言してしまいたい。
とくにこの第2回からは、矢口実行委員長は「大人の修学旅行」というイベントコンセプトを打ち立てたとのことで、沖縄にルーツを持つという彼女の郷土愛が随所に感じられた。そして、そんな沖縄愛を支えたスポンサーやスタッフたち、そして何よりエントラントたちの熱意によって素晴らしいイベントとなったことに、心よりの賛辞を贈りたいのである。