ハーフスケールのフェラーリ275P
「チルドレンズ・カー」ないしは「ジュニアカー」は、しばしば呼ばれる「キッズカー」より少しだけ対象年齢が高めのものを指していう言葉のようです。これらのモデルの一部には、モデルとなる「ホンモノ」のクルマの再現度や作り込みの精巧さなど、子ども用のおもちゃの領域をはるかに凌駕し、コレクターズアイテム、ないしはアート作品のレベルに達したものも少なくありません。そして、これらのチルドレンズ・カーだけを蒐集するコレクターは欧米には数多く存在するばかりか、専門のミュージアムなどもいつくか設立されており、国際オークションでは重要なアイテムとして取引されています。今回は、クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界における世界最大手、RMサザビーズが2024年3月1~2日に開催した「MIAMI 2024」オークションに出品された、1/2サイズのフェラーリ「275P」についてお伝えします。
ル・マンで勝ったフェラーリを再現したジュニアカーとは?
このチルドレンズ・カーのモデルとなったのは、映画『フォードvsフェラーリ』に描かれていた時代のフェラーリ製レーシングプロトタイプである。
今から60年前となる1964年、フォードとフェラーリの戦いはいよいよ幕を開けた。この年のル・マンに、フェラーリは3.3Lの「275P」3台と4Lの「330P」1台、計4台の「スポーツプロトタイプ」によるチームを送り込む。
いっぽうフォードからは3台の「GT40」と「シェルビー デイトナ クーペ」がエントリー。ル・マン初参戦となったフォードGT40はいずれも完走を果たせなかったものの、シェルビー デイトナ クーペは、ジャン・ギシェ/ニーノ・ヴァッカレラ組が駆った総合優勝マシン275Pを含む3台のフェラーリに次ぐ総合4位に入賞するとともに、FIA-GTクラスでは特別仕立てのフェラーリ275GTBを破るかたちでクラスウィンを果たした。
このハンサムな「フェレーロ・ル・マン」は、275Pを約半分に縮小したもの。1992年にイタリア・ロンバルディア州モンツァ近郊の町、ブリオスコにある「カロッツェリア・エウジェニオ」にて、エウジェニオ・フェレーロが手作りしたといわれる12台のジュニアカーのうちの1台で、シャシーナンバーは「02/12」とのことである。
スタイリングはもちろん、1964年のル・マンで優勝したフェラーリ275Pがモチーフ。鋼管フレームに一体成型のファイバーグラス製ボディ、50ccのピアッジオ製2ストローク。つまり当時の「ヴェスパ50s」用の空冷単気筒エンジンを搭載し、リバースギアつきの4速ギアボックスを組み合わせていた。
また、コイルオーバーショック式の前後サスペンション、リア油圧ドラムブレーキ、そして12Vのバッテリーと電気系統を装備している。
赤と白のカラーリングで仕上げられた車体には、モノポストのドライビング・ポジション用にタン色のレザーシートが組み合わされている。また、ドライバー左側にあるコントロール系は、子どもの小さな手でも簡単に操作できるように作られているという。
「未来の“ティフォーゾ(Tifoso:フェラーリの熱心なファン)”が乗る最初のレーシングカーとして理想的!」
RMサザビーズ北米本社が製作した公式ウェブカタログでは、そんな謳い文句とともに、3万~4万ドルという、いささか強気にも映るエスティメート(推定落札価格)が設定されていた。
ところが当日の競売では思いのほかビッド(入札)が伸びることなく、終わってみれば1万2000ドル、日本円に換算すれば約182万円という、売り手側にとってはかなり厳しい落札価格で、競売人のハンマーが鳴らされることになった。
公式ウェブカタログでは「この楽しい小さなフェレーロはコンディションが良いうえに、1990年代のものとしてはディテールも正確に仕上げられている」という甘口の記述がなされてはいるものの、今世紀に入ったのちプロポーションやディテールともに長足の進歩を遂げた感のある「チルドレンズ・カー」ないしは「ジュニアカー」と比べてしまうと、ちょっとおもちゃっぽさが否めない気もする。
あくまで私見ながら、これはこれで可愛らしくも感じられるものの、やはり当代流行りのリアルなジュニアカーに慣れてしまった現代のコレクターにとっては、もの足りなく映ったのかもしれない。