サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

「SLS AMG」の偉大さをメカニズムから検証。速さだけでないメルセデスの安全思想も注ぎ込まれた最高傑作の1台でした

SLS AMGのエンジンは、フリードリッヒ・アイヒラー博士が3年の歳月をかけて独自で開発した芸術作品である

当時最先端のテクノロジーを満載

1950年代に一世を風靡した、メルセデス・ベンツ「300SL」ガルウイングクーペの再来とうたわれたのが、2009年9月にフランクフルトモーターで発表された「SLS AMG」です。このSLS AMGの特徴は、メルセデス・ベンツとAMGの両ブランドの強みを活かしたスーパースポーツカー。つまり、いまやメルセデス・ベンツの伝説となった300SLガルウイングのスタイルにAMGの技術を注ぎ込み、理想的な形で融合させて現代に蘇ったのです。あらためて搭載されたメカニズムなどを紹介。ただ速さを追求するだけではない、メルセデス・ベンツとAMGのこだわりとは? 

メルセデス・ベンツ伝統の「エンジンよりも速いシャシー」の意味

メルセデス・ベンツがいう「高性能」とはバランスのとれたクルマのことであり、エンジンパワーが強すぎてコントロールの難しいクルマはメルセデス・ベンツでは不合格。すなわち、メルセデス・ベンツのいう安全なクルマとは、エンジン性能をフルに駆使しても余裕あるサスペンション、そしてブレーキ、操縦性などで、誰にでもコントロールできるクルマであるという条件が第一となっている。そこで、スーパースポーツカーであるSLS AMGの能動的安全性(事故を起こさないための安全性)である「走る性能・曲がる性能・止まる性能」について紹介。コンパクトカーから本格スポーツカーまで、その考え方は同じなのだ。

「One man-One engine」で生み出される高性能V8パワーユニット

SLS AMGのエンジンは、フリードリッヒ・アイヒラー博士が3年の歳月をかけて独自開発した芸術作品である。「One man-One engine」で造られるAMGならではの高性能な6.3L V型8気筒DOHCエンジンを構成する550個のパーツは、すべて精密な計算の基に設計されている。加えて、これらのパーツ類は、すべて専門の検査用具を使用し、600時間以上にわたる過酷な検査を受け、耐久性を確かめた後に初めて使用される。

つまり、エンジンを形成するすべての部品は、耐久性の検証を受けている。これはAMGモデルの開発プロセスにおいて標準的に行われる作業であり、決して例外はなく、スーパースポーツカーであるこのSLS AMGにおいても同様に行われる。

ドライサンプ式エンジンオイル潤滑システムを採用

従来の「M156」エンジンをベースにドライサンプ化し、120以上のパーツを新設計した「M159」を搭載している。最高出力は571ps/6800rpm、最大トルクは66.3kgm/4750rpm、最高速度は317km/h(リミッター作動)、0‐100km/h加速は3.8秒と、スーパースポーツにふさわしい圧倒的な高性能を発揮する。

このように大幅な高性能を実現した主な要因は、気流を最適化し吸気効率を高めたマグネシウム製インテークマニホールドシステムや、よりきめ細かい制御を行う可変吸排気バルブ/カムシャフトコントロールシステム、等長エキゾーストマニフォールド、エキゾーストシステムのスロットル小径化などである。

このような対策により、シリンダー充填が大幅に改善され、最高出力は9%近く向上するとともに、全回転域でのスロットルレスポンスも大幅に向上。電子制御のスロットルは全開までわずか0.15秒という、卓越したレスポンスを誇っている。

また、エンジンオイル潤滑をドライサンプ方式とすることにより、エンジン搭載位置をこれまでよりかなり低くすることと、高速コーナリング時の強い橫Gがかかった状態でも安定的なオイル供給が可能となる。つまり、通常のウエットサンプ方式では、エンジン下にオイルを溜めるオイルパンが必要だが、このドライサンプ方式の場合、オイルタンクの位置や形状を自由にでき、エンジンの搭載位置を低く設定できる。そのためクルマの重心が下がり、高速コーナリングとダイナミックなハンドリングを実現する。

トルクチューブを備えたトランスアクスル式デュアルクラッチトランスミッション

V8エンジンの強力なパワーをリアアクスルへ伝達するため、DTM(ドイツツーリングカー選手権)のレースマシンにも採用された、わずか4kgの軽量かつ高剛性なカーボンファイバー製ドライブシャフトを搭載。鋳造モノブロック構造の25kgのアルミニウム製トルクチューブを採用し、エンジンハウジングからリアアクスルに搭載されたメルセデス・ベンツ初採用のデュアルクラッチトランスミッション(トランスアクスル)に接続している。

このメリットは、エンジンとトランスミッションとの間が高剛性リンクとなることにより、発生する力やトルクに対するレスポンスが最適化されることにある。このように、トランスミッションをリアアクスル後方に配置するトランスアクスル・レイアウトを採用したことで、フロントアクスル後方に配置されたフロントミッドシップエンジンとともに47:53という理想的な前後重量配分にも貢献。スーパースポーツにふさわしく、レーシングカーと同じメカニズムをドライバーに体験させてくれる。

新開発のAMGスピードシフトDCT 7速トランスミッションは、変速時間が最速で1000分の1秒まで高速化され、トラクションが途切れない素早いギアチェンジを可能にした。このDCTの意味はデュアル・クラッチ・テクノロジーの略。つまり、エンジンの動力をギアセットに伝えるトルクコンバーターに代わり、湿式多板クラッチを採用し、マニュアルトランスミッションのようなダイレクト感とスピーディなシフトチェンジを実現したもの(湿式とはいつも潤滑油で冷却されていることであり、多板とは薄いクラッチ板を何枚も重ねて押し付けて使う動力伝達装置)。

ドライブモードは、「C」=コントロールエフィシェンシー(燃費優先)、「S」=スポーツ、「S+」=スポーツプラス、「M」=マニュアルの4つの異なるモードを備えている。特に、Mモードではシフトチェンジに要する時間が0.1秒以下となり、アグレッシブなスポーツ走行にも対応。さらにF1テクノロジーを受け継ぐRACE START機能も搭載しており、発進時のトラクションを最大化することが可能だ。

S、S+、Mの3つのモードでは、自動ブリッピング機能が働き、AMGドライブユニットシステムのトルクレギュレーターにより管理されている。加えて、コンパクトなトランスミッションケースに一体化した機械式LSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)により優れたトラクション性能を発揮し、SLS AMGの卓越したパワーを確実に路面に伝達する。

F1のノウハウも注ぎ込まれた足まわりに可動式リアウイングを採用

足まわりは、レーシングスピリットあふれるアルミニウム製4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションを採用。メルセデス・ベンツとAMGは、理想的なスーパースポーツカーを造り上げ、サーキット性能とメルセデス・ベンツならではの長距離快適性を両立させることを目指して洗練されたシャシーレイアウトを実現した。

ホイールの支持には、F1などのレースでも実績を挙げたトラックロッド付きデュアルAアームを採用している。専用設計のダブルウィッシュボーンサスペンションは、ホイール支持とサスペンション機能は互いに分離しており、スプリングストラット/ダンパーストラットを下側のラテラルリンクで支えている。この剛性と操縦安定性に優れるダブルウィシュボーン式は、上下動を最小限に抑えつつ、極めて厳しい状況においても最適なロードホールディング性を確保する。

トランクリッドに120km/hを超えると自動的に立ち上がるリトラクタブル・リアスポイラーを装備しており、高速域でのダウンフォースを高め、優れた高速安定性に貢献する。しかもこのリトラクタブル・リアスポイラーは、80km/h以下になると自動的に格納するが、センターコンソールのスイッチによってマニュアル操作も可能だ。

電子制御を駆使し最高峰のパフォーマンスを引き出す

固定ギアレシオの車速感応型パワーステアリングを採用。ラック&ピニオン式ステアリングは、13.6:1の固定ギアレシオを採用し、スーパースポーツ特有のクイックかつダイレクトなステアフィールを常に提供してくれる。車速に応じてアシスト量が変化するパラメーターステアリングにより、速度が上がるにつれてドライバーへのフィードバックを高める。これは高速での直進走行時に極めて重要な要素となる。ステアリングギアはエンジンの前側、フレームタイプのインテグラルサポートにマウントされ、エンジンの搭載位置を低くすることにも貢献している。

スポーツモード付き3ステージのESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)を採用。シフトレバー橫のESPスイッチで3つのモ-ドを切り替えることができ、選択したモードはマルチファンクションディスプレイに表示される。

ESP ONモードでは、ハンドリングが不安定になるとひとつ以上のホイールに対してブレーキ介入を行うとともに、エンジントルクを絞る。ESP SPORTモードはESPキーを短時間押すと起動。このモードでは、オーバーステアやアンダーステアを修正するブレーキ介入とエンジントルクの制御機能が作動する限界値が高くなり、例えばより大きなドリフトアングルを許容するようになるなど、はるかにダイナミックな走りを楽しむことができる。ただし、ブレーキペタルを強く踏むとただちに通常モードであるESP ONモードに戻る。

ESP OFFモードはESPキーを押し続けると起動。このモードでは、ハンドリングをコントロールする介入動作やエンジントルクの低減は行われないため、ドライビングスキルを最大限に発揮できる。ESP OFFの時はプレセーフの機能(事故が起こる0.2秒前の予測乗員保護安全性)は解除される。ただし、このモードでもブレーキペダルを強く踏むと通常のESP ONモードに戻る。

ASR(アクセレレーション・スキッドコントロール)のトラクション機能は3つのESPモードすべてにおいて作動する。センサーが駆動輪を常に監視し、いずれかが空転しそうになると適切なブレーキ圧を加え、もう一方の駆動輪のトラクションを大幅に改善する。また極めてダイナミックな走行時のトラクション確保には、標準装備の機械式多板LSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャルロック)も大きく貢献し、エンジン出力が路面へ伝達する効果を高めてくれる。

圧倒的なスピードを一気に減速させるブレーキシステム

「ブレーキを制するものは、自動車も制する」といわれるほど、止まる性能は重要である。先述の通り、新設計したエンジンM159を搭載し、スーパースポーツカーにふさわしい圧倒的な高性能を発揮するのに対し、止まるという重要な性能を発揮するために、ブレーキにはAMGハイパフォーマンスコンポジットブレーキを採用している。

フロントには6ピストンキャリパー、リアに4ピストンキャリパーと大径の鋳鉄製ドリルドベンチレーテッドディスクを組み合わせ、非常に大きな負荷の下でも制動距離を大幅に短縮し、優れた制動力と正確なコントロール性を発揮する。

フロントには直径390mm、厚さ36mm、重量13.5kg、リアには直径360mm、厚さ26mm、重量10.6kgのベンチレーテッドディスクを採用。オプション装備として、レース用スペックのAMGカーボンセラミックブレーキを設定し、AMG CARBON CERAMICの文字が入った専用色のキャリパーを備えている。

このカーボンセラミックブレーキは、1700℃という高温での真空強化処理が施され、硬度が高められ耐フェード性も優れ、圧倒的なストッピングパワーを誇り安全性を高めている。しかも鋳鉄製のノーマルディスクに対して約40%軽量となっており、バネ下重量の低減による俊敏なハンドリングと快適性の向上にも貢献している。加えて極めて硬いため、一般的なディスクに比べて長寿命である。とくにフロントディスクは大径化され、直径402mm、厚さ39mm、重量7.9kg、リアは直径360mm、厚さ32mm、重量6.5kgとなっている。

モバイルバージョンを終了