HKS×オートバックス×木下みつひろ選手がコラボした車高調
パーツメーカーやスペシャルショップが、自慢のアイテムや技術を惜しみなく投入しているのが「デモカー」。それぞれどんなコダワリを投入しているのか、そして実際のところ、純正スペックと比べて何がどう変わっているのでしょうか? 今回はHKSとオートバックスが共同開発した車高調「HIPERMAX GATE SPEC」を装着するトヨタ「GR86」に市街地とワインディングで試乗しました。チューニングライターを驚愕させた実力とは?
A PITオートバックス東雲のGR86デモカーに試乗
「ヤバい仕上がり、マジでチョービビる!」
冒頭からギャル語になるくらいの衝撃があったのがこのサスペンション、HKS「HIPERMAX GATE SPEC(ハイパーマックス ゲートスペック)」だ。まずは「HKS GATE」とは何かを説明しよう。
A PITオートバックス東雲とスーパーオートバックス浜松の2店舗が拠点となっているHKS GATEは、店内にHKSのコーナーがあるだけでなく、HKSのスタッフが定期的に常駐し、より専門的な知識でチューニングのアドバイスを行ってくれるサテライトショップだ。
このHKS GATEの専売サスペンションを作ろうというプロジェクトが立ち上がったのが2023年のこと。スーパーオートバックス浜松でこれまでも商品開発の協力をしていた木下みつひろ選手がそのアドバイザーとなった。
木下みつひろ選手はカートから全日本GT選手権、スーパーGT、スーパー耐久など幾多のレースに参戦。ブレーキ&サスペンションメーカーの社員として開発ドライバーをしていた経験があり、同時に横浜ゴムやハンコックタイヤでタイヤの開発ドライバーもしていた。
その木下選手と協力してもっと良いサスペンションを作ろうというのが今回のプロジェクト。トヨタ「GR86」/スバル「BRZ」用サスペンションを皮切りに、スバル「WRX」や日産「フェアレディZ」などにもサスペンションを開発している。今回はA PITオートバックス東雲のGR86デモカーに試乗した。
コストを抑制しながら極上の乗り心地を実現
だが、何でもありならサスペンションは良くできる。コストを掛ければそこそこ良いものはできるのがサスペンションというものだ。だからこそ、あえてこのプロジェクトにはコスト的な制約がある。実際完成したGATE SPECサスペンションは、ベースとなったHIPERMAX Sからわずか1万3000円アップの29万4800円(消費税込)で販売されている。開発ドライバーの木下選手はこう語る。
「内部パーツに高価なものを使うとかすれば、良くすることはできる。でもそれで高かったら意味ないですよね。なので、基本的に同じパーツを使って仕上げます」
そこでHKS HIPERMAX Sをベースに、内部のシムの構成などは変えるが、ピストンバルブ、オイルなどはそのまま。あとはフロントアッパーマウントをキャスター角の変えられるタイプにして、オリジナルのバンプラバーを装着する程度の変更が行われている。
今回は市街地とワインディングで試乗した。東雲のGR86デモカーのタイヤは255/35R18のブリヂストン ポテンザRE-71RSを装着。ホイールはTWS RS317でA PITオリジナルのブロンズカラーとなっていて、 18インチ 9.0J+50という組み合わせ。乗り心地には結構厳しい仕様と思える。
ところが乗ってみると極めて快適。街乗りでのわずかな上下動も減衰力がしっかりと効いているので、むしろ落ち着きが出ていてしっとりとしている。GR86はノーマルサスでもかなり良い仕上がりだが、それを超えてきている。しかも、それが255幅で剛性の高いポテンザRE-71RSで実現しているのだからチョービビる! 235幅くらいのミシュラン パイロットスポーツ5などを履いたら高級セダンのような乗り心地になってしまうんじゃないかと思うほどだ。
ワインディングでも落ち着いて速く走れる
ワインディングでも印象は変わらず、よく動くサスペンションが路面をしっとりと捉える。タイヤと路面が優しくコンタクトしているので安心感が高い。ハンドルをゆっくりとスーッと切っていけば、自然と曲がっていく。めちゃくちゃ曲がっていく。
コーナリングスピードの限界が分かりにくくなるほど安定しているので、気をつけないととんでもないスピードでコーナーに進入してしまうほど。それでも安定して一抹の不安もなく曲がっていける。
しっとりとクルマが反応するので、ドライバーも自然と操作がしっとりしてくる。「うりゃー」と操作しなくても反応してくれるので、こちらも落ち着いた操作ができるようになる。もう気がつくと木下みつひろ選手のようなスムーズなステアリングさばきになっている自分がいる。スムーズな運転養成ギプスでもあるのだ。
冗談のようだが、この仕上がりのサスペンションに乗っていれば自然と運転が上手になる。そういった仕上げがされている。
減衰力はソフト側でもハード側でもしっかり走れる
そして、減衰力が幅広く使えるのもポイントだ。このデモカーのバネレートはフロント5kgf/mm、リア6.5kgf/mm。さきほどまでは減衰力を30段階中の12段戻しで乗った。そこからもっと減衰力を弱めて27段戻しにすると、もっとソフトになっていく。でも、ふわふわするわけではなく、うまく動きが抑えられている。このあたりはタイヤとのマッチングで調整するのが良さそうだ。
そして、減衰力を強めてみる。3段戻しにしてみた。すると少しだけハードさは出てくるが、乗り心地が悪くなるというわけではない。ここまで減衰力を強めても一般的な車高調よりも遥かに快適。
ハンドルを切っていくと0°から90°くらいまでのところでの手応えが増す。切っていくとちょっとハンドルが重くなっていて、タイヤのグリップを感じながら曲がっていける。ちょうど「そこが欲しかったんだよ」というところの減衰力が出てきていて、乗り心地が硬くなる減衰力アップとはちがう反応を示してくれる。
ハンドルの操作に対する反応がよりダイレクトになってくるので、グリップ感を感じたい時には少し締め込むと良さそうだ。
極めて乗りやすく扱いやすいGR86が実現した
正直ここまで煮詰められているサスペンションはそうそうないレベル。HKS GATEでしか購入できないのがもったいない仕上がりだ。
クルマ自体はこのサスペンションに、CUSCOのLSD MZを組み合わせる。エンジンはHKSエキマニにHKSのLEGAMAXマフラーを組み合わせ、ECUはA PITオートバックス東雲オリジナルの純正書き換えサービス「デルタボックス」でまとめられる。ブレーキはエンドレスの6POTライト&S4Rの組み合わせ。
レスポンスよく吹けるエンジンはパンチがアップしている。ブレーキは安心感たっぷりで4輪で沈み込んで止まる感触があり、短く強く躊躇なく止められるし、街乗りでの操作性にも優れていて、鳴かないのも嬉しいポイント。極めて乗りやすく扱いやすいGR86に仕上げられているのだ。
GATE SPECサスペンションは現在車種を拡大中。これほどまでの仕上がりなら他車種にも乗ってみたくなる。ワクワクが止まらないのである。