1987年公開の世界的ヒット映画『バグダッド・カフェ』のロケ地へ
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。イリノイ州シカゴから西に向かい、ついに最西端のカリフォルニア州に突入しました。モハヴェ砂漠にも見どころが多い中から、今回は名作映画『バグダッド・カフェ』の「聖地」すなわちロケ地を訪れます。
モハヴェ砂漠の乾いた空気感と個性的な人々が織りなす静かなドラマ
旅はジョシュア・ツリー国立公園から再びマザー・ロード、ナショナル・トレイルズ・ハイウェイと呼ばれるルート66へ戻る。前々回に紹介したロイズ・モーテル&カフェから、西へ1時間ほどクルマを走らせたあたりが次の目的地だ。
1987年に西ドイツで製作され日本では少し遅い1989年の公開となった、パーシー・アドロン監督による映画『バグダッド・カフェ』のロケ地。モハヴェ砂漠にあるガスステーションとモーテルを併設する寂れたカフェを舞台に、地元の人々とドイツからやってきた旅行者による日々のできごとを描いた作品で、世界中で高く評価され、ルート66ファンならぜひとも観るべき1本といっていい。
主人公や女主人をはじめとする個性あふれるキャラクターたち、アメリカ西部の気候や風土が画面の節々から感じられる空気感、ジェヴェッタ・スティールが歌う主題曲『コーリング・ユー』など、派手な演出やストーリーとは無縁だけど不思議と心に沁み込んでくる。
そんなロケ地で旅人を待っているのは、作品と同名の「バグダッド・カフェ」だ。以前は「サイドワインダー・カフェ」という名前だったけど、映画のヒットを受け1992年に変更したとのこと。なおバグダッドとは地名で、ロイズ・モーテル&カフェのあるアンボイからすぐ西に位置しており、バグダッド・カフェはニューベリー・スプリングスという今までも何度か出てきた非法人地域にある。映画のタイトルとして「ニューベリー・スプリングス・カフェ」は、いささか長すぎて語呂のいいバグダッドが使用されたのだろうか。
劇中そのもののカフェでハンバーガーを味わう
私が初めて訪れたのは2011年の3月、西から東へ向かう旅の途中だった。太陽が照りつけるモハヴェ砂漠をオープンカーでのんびりドライブし、ちょうど小腹が空いたころに映画で何度も見た建物が目に留まる。扉を開けた瞬間に耳へ飛び込んでくるBGMはコーリング・ユー、そして地元の常連客と思われる人たちから一斉に向けられる視線。もう完全に映画のなかへ入り込んだ気分になれる。
もっとも無愛想な女主人はおらずフレンドリーなスタッフに笑顔で席へ案内してもらい、メニューから表の壁にも書いてあったバッファロー・バーガーをオーダー。店内を見渡していると奥の席に座っていた初老の男性と目が合う。お約束の「どこから来た?」から会話が始まり、そこに他の客やスタッフも加わって盛り上がる。
映画のロケ地だけに外国人の観光客なんて見慣れているだろう、と思ったらひとり旅は少ないようで次々に質問を浴びせられた。映画のファンであることを伝え、食後は裏庭などを撮影させてもらうことに。
時とともに老朽化しながらも、カフェは間もなく再オープン
劇中で主人公のジャスミンが掃除していた給水塔は、残念ながら老朽化で倒壊してしまったらしい。再建のため寄付を募っているなんて話も耳にしたが、最後に訪れた2019年の時点では以前のままだった。また無造作に放置された何台ものエアストリームのなかには、劇中で絵描きのルディが住んでいたものもあるのだろうか。
そしてモーテルは屋根も壁もボロボロの廃屋となっており、残念ながら2021年には取り壊され更地になっているとのこと。初訪問のときから「FOR SALE」の看板が立ってはいたものの、ビジネスとして成立させるのはちょっと難しいのかもしれない。
公開から37年の歳月が経過しており当時と同じ風景とはいわないが、周囲のロケーションを含め今も映画の雰囲気は十分に味わえるはずだ。
今回の記事を書くにあたりウェブサイトを見たところ、豪雨で大きなダメージを受けてしまったらしい。食事の提供もコロナ禍で休止しているようで、現在はお土産の販売のみと記載されている。ただし被害の大きかった屋根は修理を終え電話も復旧、2024年6月までの再オープンを目指しているという。私にとってもルート66で五指に入る思い出の場所、1日でも早い再興と末永い賑わいを願うばかりだ。
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