マツダのロマンであるロータリーエンジンが「復活」
シリーズハイブリッドの発電専用としてロータリーエンジンを復活させた、マツダのPHEV「MX-30ロータリーEV」。激辛モータージャーナリストの斎藤慎輔氏が延べ10日間・1300kmにわたってさまざまなシーンで試乗し、その性能や実燃費をテストしました。その結果、高速道路のロングドライブではみるみる燃費が悪化し、街乗りメインではなかなか優秀という、このクルマの極端なキャラクターが明らかに。どんな使い方のユーザーにマッチするのでしょうか。
シリーズハイブリッドの発電用に復活したロータリーエンジン
マツダはパワートレインに関して、なにかと話題を提供してきたものだが、今度は2012年6月に「RX-8」の生産を終えて以来の、RE(ロータリーエンジン)の復活である。
REの強みとしては、出力比でみてコンパクトということがあり、それがFR(フロントエンジン・リアドライブ)でのフロントミッドシップレイアウトを可能にし、RX-7やRX-8など操縦性に優れたスポーツモデルを生んできた。
一方で燃費性能、排気ガス性能において不利という面から、マツダも一度は継続を諦めることになったのだが、今度は、従来のスポーツモデル用のエンジンから一転して、シリーズハイブリッド用のエンジン、つまり発電機として使おうというのだ。復活は歓迎したいところだが、それが発電機としてとなれば、以前のREフィールをよく知る筆者のような年代の者にとっては、正直、ただ素直に喜べるわけでもない。
「MX-30ロータリーEV」と、車名からしてRE搭載車であることを強調しているが、シリーズハイブリッド用エンジンに求められるのは、効率の高さは当然として、それがよっぽどに心地良い音色であったりしない限りは、むしろ存在感をどれだけ薄められるかが勝負どころのひとつにもなってくるからだ。
そもそも高回転を得意としてきたREにとって、このMX-30ロータリーEVに搭載される新開発の8C型と名付けられた830ccのシングルローターエンジンは、最高回転でも4500rpmあたり、常用域は2000~2500rpmといったところらしく、何より充電+電力負荷に応じて回転を制御しているものだから、ドライバーが回転をコントロールできる余地はない。ならばこそエンジンが始動した際、できるだけ振動や音を発せず、伝えず、電動駆動車らしくスムーズに走れるかどうかが重要になってくる。
ということで、試乗会における短時間走行ではなく、本当の姿、実力を知るべく、1台は都内近郊および箱根周辺を主体に、もう1台はスタッドレスタイヤ装着車で、雪の残る山形県の山間部まで出かけ、2台で延べ10日間以上、走行距離計1300km弱を乗って、官能性から積雪地など滑りやすい路面における駆動性能、制御、ハンドリング、そして実燃費までをしっかりと確認させてもらった。
WLTCモード燃費では15.4km/L
MX30ロータリーEVはロータリーエンジンを発電機としたシリーズハイブリッドであるが、普通充電に加えて急速充電機能までを備えたPHEVであることが特徴だ。その駆動用リチウムイオンバッテリー容量は17.8kWhで、EVとしての航続距離は107kmと発表されている。そのうえで燃料タンク容量は50Lを確保していることから、航続距離も長いとなるわけだが、しっかり走って真の実力を確認させてもらうのが筆者のスタンスでもある。
ちなみにWLTCモード、つまりこれはハイブリッドモードでの燃費と捉えるべきものだが、公表値は15.4km/Lとなっている。この時点で、このボディサイズ、エンジン(発電機)の出力などからして、ハイブリッドとして秀でた数値ではないことは知れるが、はたしてロータリーは燃費が悪いという過去の事実は、払拭できることになるのだろうか。
この際の燃費に対する考え方は、いくつかある。PHEVであるので、外部からの電力供給で走行前に満充電にしておき、EVモードのみで走らすということになれば燃料の使用はゼロだから、名目上は走行107kmまで燃費無限大ということになるわけだ。
もっとも、1台目をマツダから借り出した際、走りだす前にモニター上で確認された数値を記せば、SOC(State Of Charge=バッテリー残量)98%でEV走行可能距離は75kmと表示されたが、2台で計1300km弱を走行した中では、通常の走行環境での電費からして、このあたりが現実的なところだと知れた。
高速道路340キロ走行での実燃費は9.4km/Lと残念な数値
純粋にEVとしての走行においても出力特性は穏やかで、大半のBEVやPHEVがモーター駆動する際の、アクセルの踏み込みで一瞬で大トルクを発生させて、いかにも電動駆動車らしい、瞬時に頭を後方にのけぞらせるような強烈な加速をもたらすようなことはない。
これには、EVなのに鋭い加速が得られないと思う人と、速さはないが心地よく上質な加速感と捉える人とに二分しそうだが、ここはマツダの考え方がよく現れているところでもあり、個人的には、車両のキャラクターとも合って好ましい特性だと思えた。
そして純EVに対してのPHEVの強みは、長距離を走行する場合でも、外部からの駆動用バッテリーへの充電の必要なく走り続けられることで、WLTCモード燃費から計算すると、これが770kmとなっているわけだ。
けれども、実走行において、とくに高速道路を主体に長く移動するようなことになれば、これには大きく届かないことを知ることになった。懸念が現実になったという感じでもあったので、先にこの点から述べてしまうが、なによりも高速巡航における燃費が、WLTCにおける高速道路モードの数値(16.4km/L)とは乖離しているのだった。
今回は、シリーズハイブリッドが苦手とされる高速走行域での燃費性能を知りたかったこともあり、山形県で高速道路のインターに入る直前に満タン給油し、そして都内で首都高速を降りて数kmのガソリンスタンドで再度満タンにするまでの約340kmの間をすべてノーマルモード(ハイブリッド)で走行してみたのだが、その際の実燃費は、9.4km/Lしか走っていなかったのだ。
同じような環境、速度での走行ならば、いまどき600ps級のスポーツカーでも得られてしまう燃費で、さすがに落胆した。
走り方に疑問を抱く方もおられると思うので、条件を記しておくが、スタッドレスタイヤ装着(タイヤメーカーによれば、スタッドレスタイヤはゴムの特性から転がり抵抗は小さく、スタンダードクラスのエコタイヤ相当だという)で、高速道路(東北中央自動車道→東北自動車道→首都高速道路)では、基本的に走行レーンで流れに準じ、追い越しは最小限に留め、最高速度120km/h区間においては、ACCを110km/hにセットして走らせた。
乗員は3名だったので、1人乗車に対しては重量のハンディを考慮しておく必要はあるが、加減速を頻繁に伴わない巡航での影響度は、上り勾配が続くような場合を除けばそれほど大きくはない。むしろ一般道での影響の方が大きかったのかもしれず、一般道の割合が多かった往路では、道の駅で急速充電により一度満充電にしたにもかかわらず、目的地到着時にメーターが示した平均燃費は13.3km/Lと芳しいものではなかった。
それにしても、わずか72psのREによる発電機が、連続高速巡航など負荷の大きな際の燃費は想像を超えて悪く、燃料計の針が目に見えて落ちていくことに驚かされたのだった。
街中走行がメインなら17.3km/Lと優秀な数字
ちなみに、山形での給油の際のバッテリー残量は50%をわずかに切る程度だったが、高速道路走行中もそのあたりを保ち続ける。エンジンは軽負荷では停止するが、感覚的には8割程度は作動している感じ。室内に届くエンジン音については、音量自体は抑えられているが、レシプロエンジンとは異なる、耳に届く独特の曇った音と、軽めだが音圧も感じさせることから、個人差はあるだろうが、快音とか心地よいとか評するには無理がある。
この山形への往復では、復路でも泊まった温泉宿で、普通充電により100%まで充電をした状態で出発したため、とくに一般道でのEV走行比率が必然的に高められていた。さらに、都内に戻ってからも一度、急速充電により満充電としたにもかかわらず、走行約830kmにおける平均燃費は、残念ながら13.8km/Lに留まった。
ちなみに、都内から箱根周辺などを約450km走行したもう1台は、街中走行が多く、かつその間に急速充電により2回満充電としたことで、メーター表示上で17.3km/Lの平均燃費を得ている。
これらをしてPHEVだからこそのメリットと捉えるのか、とくに80km/hを越えるような高負荷域でのエネルギー効率の悪さを疑問視するか、捉え方は分かれることになりそうだ。
明確なフロントヘビーゆえのメリットとデメリット
走りに関しては、駆動制御についてはEVにありがちな過剰感が抑えられ、大人しい印象をもたらすほどにスムーズであることは先にも述べた。このあたり、わざわざ駆動用モーターを自社開発するくらいのこだわりを持つだけのことはある。また、パドル操作によりアクセルオフ時の減速度だけではなく、加速性能の強弱も合わせて変えられるので、ドライバーの意思を車両の動きに反映させやすい。これにより、ドライビングのリズムも、よく設えられた走りの中に、ちょっとしたスポーティな感覚も得られるのが好ましく思えた。
もうひとつ、走りの特徴をもたらしている要因として、コンパクトなロータリーエンジンを搭載するといいながら、前後重量配分は明確なフロントヘビーという点も見逃せない。車両重量1780kgに対して前軸荷重1090kg、後軸荷重690kgと、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車としての比率でみれば、ディーゼルエンジン搭載車なみかそれ以上。
フロアセンターに駆動用バッテリーを搭載していて、トランスミッションも持たないのにこの数値なのだから、いかにパワーユニットが重いかが知れる。燃費とともにREをあえて採用したことの理由が問われる点だ。
ただし、雪道を走行した中では、FFとしては圧倒的にも感じさせるトラクション性能にフロントヘビーのメリットを感じさせる。登り勾配の、雪面の下がアイス状になっている状況など、FFではここからの発進は難しいかも、と思わせる中で、結構な空転を許容しながらも動き出して登っていける状況を何度か経験し、過剰に出力を絞り込まないトラクション制御の在り方とともに、「これはなかなかだ」と思わせてくれた。
低ミュー路ではアンダーステアが顔を出す
一方で、ハンドリングには明確な影響をもたらしている。ドライ路面であれば、普通にドライビングをしている限り、普通に曲がるように感じさせるが、雪道など低ミュー路になると、いかにも頭の重さを知らしめるアンダーステアが顔を出すようになる。
コーナーへの進入では、そもそも前輪の接地荷重が大きいことに加えて、モーターのトルクコントロールにより一瞬前荷重とさせるGベクタリングコントロールが有効に働くが、そこから先は、フロントヘビーによる慣性と、電動駆動車でよく経験する、コーナー出口に向けてのごく軽いアクセルオンでも、モーターのトルクが瞬時に高まる特性と相まって、ドライバーが想定していた以上のアンダーステアに転じたりする。正直、雪道のコーナーにおけるコントロール性は、感心するものではなかった。
これは、低ミュー路なので、低い速度域、低い横G領域でもわかりやすく生じたものだが、基本特性としてドライ路面でも同じということ。箱根でのワインディングでも、高い横G領域に持ち込むとアンダーステアが強いこと、ドライ路面ではそうした際の前輪への負荷が大きいこともよく知れた。
反面、車重が増したこともあり、乗り心地には落ち着きも得られているし、直進安定性も、ACC使用時のレーンキープアシストが車線間を右に左にふらふらとしたがる不出来を別とすれば悪くないなど、普段使いの領域では快適性を備えた走りを得られている。
日常の足のPHEVとして使うなら長所が上回る
では、このMX-30ロータリーEVというクルマをどう捉えるべきか。あくまでもPHEVとして、日常は大半をEVとして走らせることができる使用環境、移動距離であれば、REの燃費の悪さもそれほどデメリットにならないだろうし、そのうえで長距離移動の際の安心感も備えていることになる。また、急速充電を備えたことで、出先でもちょっとした合間に満充電まで可能なため、EVとして走らせることができる距離が稼げることも強みとなるだろう。
そうしたことを勘案した上でも、シリーズハイブリッド用に開発された8C型REの燃費性能は褒められるものではなく、そのうえ重量においても、また音の面でも苦労していることを知れば、目的と手段のプライオリティが逆転しているようにも思えてしまう。
ただ、いちクルマ好きの立場から、とさせてもらえるなら、現状のSKYACTIV-Xとも同様に、これはもうマツダのロマンとして見守っていきたいと思わせるところが、なんとも悩ましいところなのだ。
■MAZDA MX-30 Rotary-EV
マツダ MX-30 ロータリーEV
・車両価格(消費税込):423万5000円~
・全長:4395mm
・全幅:1795mm
・全高:1595mm
・ホイールベース:2655mm
・車両重量:1780kg
・エンジン形式:水冷1ローター(8C-PH型)
・排気量:830cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FF
・変速機:CVT
・エンジン最高出力:72ps/4500rpm
・エンジン最大トルク:112Nm/4500rpm
・モーター最高出力:170ps/9000rpm
・モーター最大トルク:260Nm/0-4481rpm
・公称燃費(WLTC):15.4km/L
・ラゲッジ容量:350L(BOSE付車は332L)
・燃料タンク容量:50L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)トーションビーム
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前&後)215/55R18(ベースグレード)