買い手にとってはお買い得だった1台
2024年5月4日、ボナムズがイギリス・グッドウッドで開催したオークションにおいてポルシェ「911ターボ」が出品されました。ボディとインテリアカラーは新車時のオリジナルコンディションを保っていて、リアに貼られているデカールも当時物で購入者には魅力的な1台となっていました。
ボディには事故や腐食の跡もない
1974年10月に開催されたパリ・サロンで、その後のスーパーカーの勢力図に大きな変化を巻き起こす、1台のニューモデルが発表される。そもそも400台の生産が義務付けられていた、当時のグループ4車両としての公認を狙って開発プロジェクトが立ち上がった、ポルシェ「911ターボ」。開発時には「930ターボ」と呼ばれ、1975年3月には販売が開始されている。
レーシングカーさながらのアピアランスは、911ターボにインパクトを与えていた。リアに搭載される260ps仕様の水平対向6気筒エンジンにはKKK製のターボが組み合わされ、強大なパワーを受け止めるための後輪は驚くほどに太い。それを収めるためにリアフェンダーはダイナミックにワイド化されることになった。前後のホイールやリアウイングもターボのための専用部品として開発されたもので、同様に特徴的なリアウイングも911ターボの大きな特徴であり、またポルシェ・フリークの憧れとなった。
改めてスーパーカーの歴史を振り返ってみると、ポルシェ911ターボが、ほかのスーパーカーに与えた影響は計り知れなかったことが分かるだろう。260psの最高出力を誇るターボエンジンの開発で、そもそもの起点にあったのは1969年に試作されたターボ搭載で2Lの排気量を持つ901型エンジン。その後1975年に917/10Kと917/30Kで1972年と1973年のCan-Am選手権を制覇した後に、満を持して930ターボを発表したのだった。
最高速で250km/hを実現した930ターボは、当時の価格でもほかの911シリーズとは比較にならないほどに高価格だった。当初の生産台数として考えられていたのは、前の計画より若干増えた500台。だがベースとなる911の生産が1981年以降継続されることが決定し、ターボモデルの生産計画も延長された。
1977年にはエンジン排気量を3.3Lに拡大することでトルクの増大を図り、耐久性向上のために内部設計等を大幅に見直した930/60型エンジンにパワーユニットは置き換えられた。参考までにこのエンジンの最高出力は304ps、最高速は257km/hを達成することに成功している。外観ではリアスポイラーのデザインなどが従来型からの変更点だ。
意外にリーズナブルな価格で落札
今回ボナムス・カーズのオークションに出品されたポルシェ911ターボは、初代3Lモデルで、サンドベージュのボディカラーとブラウンのレザー・インテリアは新車時のオリジナルを保ったもの。ボディには事故や腐食の跡もなく、驚くほどに素晴らしいコンディションを保っている。
またウイングにはオリジナルのクラシックな「Turbo」デカールがそのまま残り、インテリアではレザーシートやヘッドライナー、ダッシュボードのトリミングが施されている。フックス製のホイールも、もちろん新車時からのオリジナルアイテムだ。
クルマの履歴は2020年にアメリカに輸出されたことのみが残っており、2022年には現在のオーナーの手に、911ターボは収まった。その後、ポルシェのスペシャリストによるトランスミッションのオーバーホール等の整備を受け、さらにここ数カ月の間にリークダウンと圧縮テストも行われている。その結果は十分に満足できるものだった。パワフルなターボエンジン、その希少さ、そしてコンディションの素晴らしさ。
いずれをとってもこの1台は魅力的なヤングタイマーと評して間違いはないだろう。注目の落札価格は8万8550ポンド(邦貨換算約1700万円)。意外にリーズナブルな価格で(実際にはこれにオークショネアへのコミッションが加わるのだが)落札できたような印象を受けたのは嬉しいところだ。