イセッタ・オブ・グレートブリテン製のイセッタ
新潟県の燕市、三条市は江戸時代には鍛冶、近代以降はその伝統を活かした金属加工産業の聖地として発展してきました。そんな地域で老舗の製造メーカーを経営している小林知行さんが惹かれたのは、BMW「イセッタ」です。モノづくりのまちに生まれ育ったオーナーが、イセッタに魅せられた理由とは何だったのでしょうか。
戦後にBMWを救ったヒット作
2024年4月14日、三条市の三条パール金属スタジアム(市民球場)にて「20世紀ミーティング 2024年春季」が開催された。参加車両のエンジン・ブリッピングのデモンストレーションやスタッフによるオーナー・インタビューなども行われるので、見学に訪れた来場者も十分に楽しめるコンテンツとなっている。今回も会場のなかでひと際コミカルな外観が注目を集めていたのがこちら、真っ赤なBMW「イセッタ」だ。
第二次世界大戦で敗戦国となったドイツで、戦後混乱期の経営難に苦しんでいたBMWを救ったヒット作としても知られるBMWイセッタ。ご存知の通り、これはイタリアのイソ・イセッタ社が開発したユニークなミニマム・トランスポーターがオリジナルで、ドイツをはじめフランスやベルギー、スペイン、ブラジルなどの各国でもライセンス生産された。
このイベントには初の参加というこのBMWイセッタであったが、通常のイセッタは後輪が超ナロートレッドの4輪であるのに対し、こちらは後輪が1輪のみの3輪車で、ステアリングの位置も右ハンドル。冷蔵庫のようなフロント・ドアの、開く方向とヒンジの位置も逆である。
昔から製造業が盛んな燕三条とヒストリックカーに共通するもの
「これはイセッタ・オブ・グレートブリテン製のイセッタ。英国のブライトン工場で生産されたモデルで1962年式になります」
と、その素性を教えてくれたのは、オーナーの小林知行さん。英国ではクルマの形態であっても3輪車はサイドカーと同様、2輪車扱いで税制上も有利ということから古くから3輪の乗用車も多く作られているが、この英国製BMWイセッタもその例に倣ってスリーホイーラー化されているというわけだ。シートの後方に配置されるエンジン自体はBMWのモーターサイクル用を転用した単気筒OHVの582ccと、ドイツ生産モデルと同一。
「BMWイセッタは中学生の頃からずっと気になる存在で以前から探していたのですが、大阪のショップが英国から輸入したという個体を2年ほど前に手に入れました」
という小林さんは、地元三条市の老舗の製造メーカーを経営している。このイベントが開催された新潟県の燕市、三条市は江戸時代には鍛冶、近代以降はその伝統を活かした金属加工産業の聖地として発展してきたのだ。小林さんは会社の若いスタッフや会社を訪れたお客さんにも「昔のモノづくり」を感じてもらおうと、普段はこのイセッタを会社のエントランスにマスコット的に飾っているという。
「昔から金属加工などの製造業が盛んな燕三条の会社のエントランスに本物のヒストリックカーを展示することで、モノづくりに共通するなんらかのメッセージも発信できたら」
と語る小林さん。職人が本気で作り上げた製品は、刃物やクルマといった分野を超えて等しく尊い、ということだろう。
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