スピードシックス コンティニュエーションシリーズ、グッドウッドでテストプログラム終了
ベントレーの特別注文を受ける部門「マリナー」では過去の名車をすべて新品部品で再現するコンティニュエーションシリーズという特別モデルを製造します。過去には1920年代にル・マンで活躍し、スーパーチャージャーを搭載した「4.5Lブロワー」が販売されましたが、第2弾の「6.5Lスピードシックス」もテストの最終段階に入り、2024年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでその走る姿が一般に初お披露目されました。デリバリー間近のこのモデルのこれまでのテスト軌跡を辿っていきましょう。
開発におけるシェイクダウン活動の重要な成果
2024年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでは、マリナーの製作した「スピードシックス コンティニュエーションシリーズ」がダイナミックデビューを果たした。2台の開発車両のうちの2台目であるベッドフォードグレーの205bhp「ファクトリーワークス」車両は、天候が変化する中、有名なグッドウッドのヒルクライムを何の問題もなく8回にわたって走りきった。これは最新モデルの開発におけるシェイクダウン活動の重要な成果である。
スピードシックス コンティニュエーションシリーズのプロトタイプである「カーゼロ」は、ダイナモとサーキットでの過酷な一連のテストに見事合格しており、これから12台の顧客向け車両の製作が開始され、各車両は時代を反映した仕上げや素材の中から顧客の仕様に合わせてトリミングされ、仕上げられる。
アルプスの峠道、舗装路、未舗装路
「カーゼロ」はクルーにあるマリナーの拠点で最初の1000kmのシェイクダウンを行った後、ミルブルックのテストコースで8000kmに及ぶ集中的な走行距離を積み重ね、次のステップに進んだ。このテストスケジュールには、ベルギーの石畳、アルプスの曲がりくねったコース、複数の最高速度テスト走行、そして1920年代のベントレードライバーにはおなじみの未舗装路での走行などが含まれていた。テストプログラムが終了するまでに、「カーゼロ」はクルーからル・マンまでの往復10回分に相当する1万1700kmを集中的にテスト走行し、これは通常走行に換算すると3万kmに相当する。
1セッションで6レース分を走る
走行距離を積み重ねた「カーゼロ」は、次にプロドライバーのチームに引き渡された。グッドウッド・モーター・サーキットをレーススピードで周回し、1セッションで500km、130周を走破した。これは、グッドウッド・リヴァイヴァルのヴィンテージレースを6回連続で走ることに相当する。テストセッションを通じて、「カーゼロ」は完璧なパフォーマンスを発揮し、戦前のオリジナルベントレーが最近グッドウッドで記録したラップタイムに匹敵するものだった。
20時間エンジンテストを2回実施
W.O.ベントレーによって設計されたスピードシックスの6597cc直6エンジンは、クリックルウッド時代(1921~1931年)に最も成功を収めたベントレーのレーシングカーに搭載されていたエンジンである。マリナーチームは、オリジナルの仕様と図面が忠実に再現するためエンジンブロックを含む600以上の部品を新たに製作することで、約100年ぶりに新品のスピードシックスのエンジンを完成させた。
マリナークラシックチームは、クルー社の最新鋭のエンジンダイナモメーターを利用し、新型「コンチネンタルGT」の782psウルトラパフォーマンス・ハイブリッド・パワートレインを担当するエンジニアリングチームと協力して、さまざまなエンジン回転数と負荷をカバーする連続20時間のダイナモ試験プログラムを考案した。2回のテストサイクルと40時間の走行後も、新型スピードシックスのエンジンは、設定されたパワーとトルクの目標を完全な信頼性で達成した。
最初の納車は今年の秋に予定
オリジナルのデザインに忠実ではあるが、スピードシックス コンティニュエーションシリーズにはいくつかオリジナルに勝る点がある。
それは、今日の工作機械が、当時のクリックルウッド工場のものよりも格段に精度が高いこと、そして現代のオイルを使用していることで、テストの結果、オイル消費量はレーススピードでもごくわずかであった点である。またスピードシックス コンティニュエーションの全車両は、標準的な無鉛ガソリンと、すぐに手に入る新しいタイヤで問題なく走ることができる点である。
スピードシックス コンティニュエーションシリーズの最初の顧客向け車両の製作は、マリナークラシックにて現在進行中で、最初の納車は2024年の秋に予定されている。
AMWノミカタ
はたしてこのスピードシックス コンティニュエーションシリーズをグッドウッドで実際に見た人の中に、このクルマがこれから販売される新車だと理解していた人がどれだけいたのであろうか? たいがいの人はベントレーがクラシックカーを走らせていると思っただけなのではないだろうか。コンティニュエーションシリーズは当時の図面そのままに、現代の技術を組み合わせながら新車として製造する、自動車ブランドとしても非常に珍しい取り組みである。レストアでもレストモッドでもなく当時のオリジナルの完全再現である。
顧客にとってみれば、このクルマを所有することで創始者W.O.ベントレーの考えていたクルマ作りの哲学に触れることができるプライスレスな価値を手に入れられるだけではなく、約100年前のクルマを新車としてオーダーし仕様を決められるという時空を越えた体験を手にすることができる。
価格は150万ポンド(約3億円)で台数も12台に限られるので現実的ではないが、このようなクルマがもっと増えてゆくと普段の街の景色が美しく変わってゆくだろうと感じる。