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ローマ教皇が乗ったフィアット「500L」にはプレ値はつくのか? 約440万円での落札は予想よりもかなり安いプライスでした

2万8000ドル(邦貨換算約440万円)で落札されたフィアット「500L」(C)Courtesy of RM Sotheby's

ローマ教皇の乗ったフィアット500L

2024年5月31日〜6月1日にRMサザビーズがカナダ・トロントで開催した「The Dare to Dream Collection」オークションには、さる有名コレクターの愛蔵アイテムおよそ300点が出品されました。その中から今回は、変わりモノ系出品ロットのなかでもある意味格別となった、1台の2015年式フィアット「500L」の解説と、注目のオークション結果についてお伝えします。

フィアット500ファミリー最大のMPVとは?

フィアット史上屈指の傑作となった現代版「500」が2007年に登場したのち、同社のラインアップの多くが「500」というネーミングと、独特の可愛らしいスタイリングを踏襲したモデルで占められていったのは、記憶に新しいところであろう。

2012年3月のジュネーヴ・ショーにて世界初公開された「500L」もそのひとつ。旧き佳き「ヌォーヴァ・チンクエチェント」時代に設定された「500L」が、少しだけ豪華に設えた「ルッソ(Lusso)」のイニシャルである「L」を掲げていたのに対して、現代版の「L」は「Large」を意味すると説明され、その名のとおり500/500Cよりも全長は約60cm長く、全幅も約153cm、全高は約18cm拡大されたボディを持つ。

フィアットが2003年から2012年まで生産していた「イデア」の後継者にあたる小型MPVながら、2代目「ムルティプラ」や500のデザインワークを手がけたことでも知られるロベルト・ジョリート氏が主導したスタイリングは、エクステリア/インテリアともに500のデザインを明らかに意識したものとなっていた。

そのいっぽうで、500Lに使用されたアーキテクチャは、500用とはまったく異なるもの。フィアット「グランデプント」とともに登場した「スモール」と呼ばれるプラットフォームをベースにしながらも、拡幅しつつキャブフォワード型ボディへの対応なども図るために改良を重ね、現在ではアルファ ロメオ「トナーレ」などにも使用されている「B-wide」プラットフォームをベースに構築された。

くわえて、1998年から2010年まで生産され、欧州ではタクシーとしても重用されていた乗車定員6人の2代目ムルティプラの需要も継承するべく、2013年6月には3列シート7人乗り仕様の「500Lリビング」も追加設定される。「500LL」とも呼ばれたこのロング版は、ホイールベースはそのまま全長を210mm延長。3列目シートを畳めば500Lよりも238Lも大きい638Lのラゲッジスペースが得られたとされている。

……と、ここまで現代のフィアット500Lについてご説明してはきたものの、このモデルはもとよりクラシックカーやコレクターズカーの国際マーケットに出品されるようなジャンルの車種ではなく、少なくとも現時点では普通の「中古車」に過ぎないはずであることは、AMW読者諸氏ならばご存知のことであろう。でも今回ご紹介する個体となれば、話は別。一流オークションで競売されるに相応しいヒストリーの持ち主だったのである。

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自信たっぷりのエスティメートを設定したものの……

このほどRMサザビーズ「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたフィアット500Lは、真に特別な来歴を持つ1台。ローマ教皇フランシスコが、2015年9月の米国訪問の一環としてニューヨークに立ち寄った際に提供された車両のひとつとして、フィアット・クライスラー(現ステランティス)から提供された個体そのものだった。

かねてから、ローマ教皇の行幸のために特装された豪奢な防弾ガラス張りの専用車両、いわゆる「パパモビル」を好まず、人としての謙虚さを重んじる教皇フランシスコの気質を物語るには理想的なクルマとなったとされている。

教皇のニューヨーク訪問から半年後の2016年3月、このフィアットは聖パトリック大聖堂の院長であるロバート・リッチー司教の運転で大聖堂に運ばれたことがわかっているほか、ティモシー・ドラン枢機卿が2016年の「セント・パトリックス・デー」パレードに参加する前にも、この車両の所在を確認しているという。

そしてその直後、ニューヨーク大司教区によってカトリックの慈善事業や教育、救済事業のためのオークションに寄付され、そこで「Dare to Dream Collection」の代理人によって落札。さらに今回のオークション出品の直前まで、約8年間にわたり同コレクションのもとに保有されていた。

大司教区が外部に放出した最初の教皇車両であると信じられているこのフィアットは、現在においても入手時と同等のコンディションを保っており、今なお基本的には「新車」のままのコンディション。オークション公式ウェブカタログ作成時点での走行距離はわずか773マイル(約1240km)に過ぎない。また、ニューヨーク大司教区がフィアットの所有者として記載されている以前の権利書と、2016年の売却証書も添付されている。

推定落札価格は760万円超え!

この極めてユニークな来歴を有するフィアット500Lについて、RMサザビーズ北米本社は「現代のフィアット500の中でももっとも歴史的な1台であることは間違いなく、この魅力的な小さなクルマは、もっとも有名な同乗者の謙虚なお人柄を反映し、素晴らしい物語を誇っている」というPRフレーズを添えて、5万ドル~10万ドル(約762万円〜1524万円)という、このモデルとしては信じがたいほどに高額のエスティメート(推定落札価格)を設定した。

フィアット500Lは日本への正規輸入はないまま生産を終え、北米でも多くは出回っていないものの、1万~1万5000ドル(約152万円〜228万円)も出せばそこそこのコンディションの車両が手に入れられるようだ。そんなユーズドカー相場観に対して、この時に設定されたエスティメートは、カトリック教徒でもない筆者からすれば驚きに値するものである。

また、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件。したがって、たとえ入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう「リザーヴなし」で出品されることになっていた。

エスティメートの段階からけっこう高価だったこともあって、「リザーヴなし」ではしばしば起こりうる安価な落札を危惧する見方があったのは間違いないだろうが、競売が進むにつれてその不安は的中。エスティメート下限をはるかに下回る2万8000ドルで落札されてしまうに至ったのだ。

現在のレートで日本円に換算すると約440万円というハンマープライスは、2015年式フィアット500Lとてはとんでもない高額に映るものの、それでもローマ教皇を敬愛するカトリック教徒の方々なら、また違う感想を持つのかもしれない。

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