屋根つきコインパーキングの戦い
名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第43回は「サビと仲良くなりたくない……」をお届けします。
みんなにホメられてゴブジ号はゴキゲン!
静岡で開催されたプレミアムワールド・モーターフェアの展示でいろんな人から「かわいい」だの「オシャレ!」だの「雰囲気いい」だのとたくさんホメてもらっちゃったせいか、東京に戻ってからのゴブジ号は、しばらくの間、わりとゴキゲンに走ってくれてた気がする。出掛けようと思えばすんなりスタートできるし、出先でいきなり止まっちゃって身動きできなくなったりすることもなかった。……いや、フツーのクルマにとっては当たり前のことではあるのだけど。
ただ、走りそのものはホントに調子がよかったのだ。スティルベーシックがキャブレターのオーバーフローの修理をしてくれたときにしっかりと季節に合わせた調整もしてくれたおかげで、エンジンの吹け上がりは極めて滑らかにして鋭敏──チンクエチェントにしては、だけど。都内の交通の流れにも楽々──というとちょっと大袈裟だけど──ついていける。なかなか速いのだ──チンクエチェントにしては、だけど。
とはいえ、軽く気になってることがなかったわけでもなかった。以前からのエンジンルーム内を浮遊してフードの内側とか隔壁とかをしっとり濡らしていくオイルの噴き出し。その原因も場所も特定できていないから、それなりに距離を走ったり状況的に負荷が大きかったりした後にはエンジンフードを開けて具合を見たり、エンジンをかける前と走り終わって少し経ってからはレベルゲージでオイル量をチェックしたり、というのは欠かしていない。1週間に1回はパーツクリーナーでフードの裏側やエンジンルームの内側を洗浄するのも、相変わらず恒例行事だ。
ただしこの頃になると、いろんなところを何度チェックしてもらっても特定できず、バラして各部のクリアランスを計測してみないとわからないレベルなんじゃないか? という疑いが生じてきていて、こうなったら遠からずやることになるオーバーホールのときにきっちり組み上げることで解決しよう、という空気になってはいた。状況を常に把握しておいて変化が大きくなってきたら対処、である。最初に新名神でオイルシールが破裂したときにエンジン内部に鉄粉が紛れ込んじゃっていることは確実視されていたし、そうであれば走れば走るほどエンジンを傷めちゃうことにもなるからバラすなら早い方がいいのだけど、そうするにはゴブジ号の2気筒エンジンはあまりにも好調だ。オイルシール破裂前と比較して、フィーリングにもまったく変化がない。……どういうことなんだ?
いずれにしても、何しろとても気持ちよく走ってくれるから、当初のコンセプトどおりの“どこにだって乗っていく”に近い使い方ができるようになっていた。ゴブジ号で出掛けるのは、ワケもなく楽しかった。
が、出掛けるのはいいのだけど、帰ってくるのが少し憂鬱だった。自宅近くの駐車場の問題があったからだ。
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できるだけゴブジ号を雨ざらしにはしたくない
チンクエチェント博物館からフィアット500をお預かりするにあたって、僕は自宅近くの屋根付き駐車場を探しまくった。が、目黒区のはずれの自宅から歩いて行ける範囲内に雨風をしのげる賃貸駐車場というのが少なくて、あっても月額7万円とか5万円とかのセレブ相手にしか思えないところだったり、あるいはネットで3万円ほどのところを発見して速攻で電話してみたら直前に埋まっちゃっていたり、不動産屋さんにお願いしておいてもなかなか出てこなかったりで、決まった駐車場を借りることができていなかった。
いや、青空露天の賃貸駐車場ならいくらでもある。けれど、出掛けてるときに降られたなら仕方ないけど、僕はできるだけゴブジ号を雨ざらしにはしたくなかった。とりわけ古いイタリア車は錆びやすい。日本より空気が遙かに乾いてるイタリアの地でも、錆だらけになったチンクエチェントというのをたくさん見てきているのだ。濡れちゃったときには可能な限り拭きまくって水滴と戦ってはいたが、それだけで防げるほど甘くないことは自明の理だ。
なら、どうしていたのか。自宅から歩いて行ける範囲内に、実は屋根付きのコインパーキングというのがふたつあって、日々、そこを利用していたのである。ひとつは徒歩10分、24時間1600円。もうひとつは徒歩2分、24時間980円で、30分前からアプリで予約可能。当然、後者を使いたいわけだ。
ところが、クルマを濡らしたくないヒトというのはほかにももちろんいて、980円屋根付きコインパーキングはいつも争奪戦だ。ゴブジ号で出掛けて帰宅を意識しはじめる頃になると、iPhoneのアプリで空き状況をチェックする。30分くらいで到着できそうになったら、速攻で予約を入れる。たった一度だけど、予報が変わって雨になりそうになったときには、30分ではとても到着できそうになかったのだけど予約を入れ、30分が経過して自動的にキャンセルとなった後に速攻でまた予約を入れて……というズルい方法をとっちゃったこともあった。腹黒い男である。
何カ月経っても多少の妥協を考えても月極の屋根付き駐車場と巡り会うことができず、日々、争奪戦を繰り広げて負けたりしてるうちに、同じ駐車場を狙ってるヒトの車種やボディカラー、それぞれの生活パターンのようなものが次第に見えてきて、勝率が60%を超えるようにはなった。でも、そんなこと考えながら出掛けるのって、疲れちゃうのだよねぇ……。
コロナ渦のときから漠然と考えてた“もう都内で暮らす意味ってあんまりないよなぁ……”というのが“ホントに引っ越ししようかなぁ……”へと徐々に変わってきたのは、そんな頃だった。
■協力:チンクエチェント博物館
https://museo500.com
■協力:スティルベーシック
https://style-basic.jp
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