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たったの240万円!? メルセデス・ベンツ「300 SEL 6.3」が格安だったのはシボレーV8に換装して80年代バブルなエアロを装着した魔改造車だからでした

1万6100ドル(邦貨換算約240万円)で落札されたメルセデス・ベンツ「300 SEL 6.3」(C)bonhams

メルセデス伝説の怪物「300 SEL 6.3に」、掟やぶりの改造を施した1台

2024年の初夏、6月17~24日にかけて、名門ボナムズ・オークション社がオンライン限定で開催した「AMG Rediscovered Online」オークションでは、アメリカ西海岸におけるAMGの大家、故バリー・テイラー氏が長年にわたって収集した極めてレアなクラシックAMGとその膨大なパーツ/グッズにくわえて、AMGではないメルセデス・ベンツも少数ながら出品されていました。今回は、そのなかでも格別のキワモノというべき、大改造が施された「300 SEL 6.3」をピックアップ。車両解説と注目のオークション結果について、お伝えします。

600グロッサーのV8エンジンを「靴ベラで滑り込ませた」伝説のメルセデスとは?

メルセデス・ベンツは、1965年のフランクフルト・ショーで、大成功を収めた「W111/W112」シリーズに代わる、新開発のラグジュアリーセダンを発表した。「W108」および「W109」のコードナンバーが与えられた新型車は、自動車デザインの嗜好が急速に変化した1960年代のトレンドに対応するべく、ダイムラー・ベンツ社所属のフランス人スタイリスト、ポール・ブラクが手がけた先代W111「ヘックフロッセ(日本でいうハネベン)」を特徴づけていたテールフィンは、W108/W109ではいさぎよく取り去られる。

ほかにもウエストラインを低め、ドア幅を広くするなど、あまり目立たないエクステリアのブラッシュアップも行われた結果、よりモダンで洗練されたアピアランスを得るとともに、室内空間もより広々としたものとなった。

ところでW108とW109の違いは、前者が標準ホイールベース仕様で、ごく少数がつくられたという後者がロングホイールベース(かつ一部はエアサス)仕様であること。またW108/W109にはさまざまなエンジンが用意されたが、そのほとんどは当時のメルセデスの各モデルに共通する、頑強な直列6気筒SOHCエンジンを搭載していた。

4ドア市販車としては世界最速の部類だった300 SEL 6.3

しかし1966年になると、社内エンジニアのエーリッヒ・ヴァクセンベルガーは、ダイムラー・ベンツのフラッグシップ「600グロッサー」の6.3L V8「M100」型エンジンをW109のエンジンルームに「押し込む」という実験的プロジェクトに着手した。そして、1968年のジュネーヴ・ショーにてこのコンセプトを公開したメルセデス・ベンツは大きな反響を得たことから、ヴァクセンベルガーのアイデアを1968年から生産に移すことになった。

こうして私的プロジェクトから正規デビューに至った、マッスルカーに近い性能を持つ高級リムジン「300 SEL 6.3」は、1972年にかけて合計6526台が裕福な顧客に納車されたといわれている。

発売された当時、300 SEL 6.3は4ドアの市販車としては世界最速の部類に入り、巡航速度は時速125マイル(約200km/h)に到達。くわえて、1968年の米『Road & Track』誌の特集では、300 SEL 6.3が「世界でもっとも偉大なセダン」と結論づけられた。この結論に至らしめた理由は「オレンジ・カウンティ・インターナショナルレースウェイ」で行われたドラッグレースにこのクルマを持ち込み、「427コルベット」に勝ったからだった、というエピソードまで残されている。

と、ここまでは生まれつき常識外れながら真っ当な300 SEL 6.3についてご説明してきたものの、正直なところ今回の「AMG Rediscovered Online」オークション出品車両には、いささかそぐわないものかもしれないのだ……。

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シボレーV8ターボに、1980~90年代風エアロパーツで大改造

さきごろ、ボナムズ「AMG Rediscovered Online」オークションに出品されたのは、AMG登場以前の高性能メルセデスを代表するモデル「300 SEL 6.3」をベースとしつつも、写真を見れば一目瞭然の「魔改造」車だった。

「バリー・テイラー・コレクション」に属していたこの1971年型300 SELは、「109-018」のシリアルナンバーが示すように、ダイムラー・ベンツ社のジンテルフィンゲン工場で製造された「ホットロッド」6.3モデルの1台として、正規に誕生したものである。

ただし「M100」型V8 SOHCユニットは素晴らしいエンジンながら、修理やリビルドには途方もなく費用を要すると判断されたことから、ある時期にアメリカではありがちなシボレー「スモールブロック」V8 OHVに換装されてしまった。SOHCからOHVに退化するうえに、スモールブロックゆえに排気量も小さくなってしまうが、代わりに大きなターボチャージャー(メーカー不明)がかなり無造作に装着されている。

エクステリアは、グレーのヴァイナルルーフ(レザートップ)を備えたブラックボディに、ブラックアウトされたクロームメッキトリムとバンパーが不穏な雰囲気を醸し出す。さらに、1980年代的に「クールな」タービンスタイルのアロイホイールが装着されるうえに、フロントエアダムやサイドスカート、リアのアンダースカート、そして1990年代風でもあるウイング形状のトランクスポイラーで構成されたカスタムボディキットが装着されていながらも、筆者の私見ではアンバランスな印象が否めない。

いっぽうインテリアは、白いパイピングと黒ビニールの縁取りを組み合わせたチャコールストライプのファブリックシートに、黒いウール風カーペットがあしらわれ、エクステリアのテーマを引き立てている。また、インパネ周辺のウッドトリムもまずまずの仕上がりで、黒い3本スポークの「ナルディ・クラシック」ステアリングホイールが装着されている。

レストアベースとするには、なかなか好適?

テイラー氏のコレクションガレージに属していた際、このメルセデスは屋内に長期静態保存されていたとのことながら、ボナムズ・オークション社の管理下に移されたあとには一度も走行しておらず、エンジンを再始動する前には一定のチェックとメンテナンスが必要とのことであった。

それでも「メカニズムの整備と選別を図れば、このユニークな300 SELには標準的な6.3を凌駕するポテンシャルが潜んでいる」という、かなり楽観的なPRフレーズを添えて、この300 SEL 6.3「改」に、ボナムズ社は9000ドル~1万4000ドル(約131万円〜205万円)という、このモデルのマーケット相場に照らし合わせると、驚くほどに安価なエスティメート(推定落札価格)を設定。くわえて、今回の「AMG Rediscovered Online」オークションの前提条件にしたがって、「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」での出品となった。

この「リザーブなし」という競売形態は価格の多寡を問わず落札できることから、とくに対面型オークションでは会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が跳ね上がる傾向もある。その反面、たとえ価格が売り手側の希望に到達しなくても、自動的に落札されてしまうリスクも内包している。

そして、6月17日にはオンライン入札が解禁されたのだが、オークショネアと売り手の予測以上に入札が進み、1週間後の24日に入札締め切りとなったところで、エスティメート上限を2000ドル以上も上回る1万6100ドル、つまり日本円に換算すれば約240万円で落札されることになった。

現在の国際マーケットにおけるボリュームゾーンでは5~6万ドル、コンディションの良いものならば10万ドル超えも珍しくはない300 SEL 6.3としては、おそらく最下層に属する落札価格ではあるものの、たとえばメルセデスのベテランコレクターがレストアベースとするには、なかなか好適とも思われよう。

あるいは、ある種の「オモチャ」として入手し、そのまま手を加えることなく、毎年8月に北米カリフォルニア州の「モントレー・カーウィーク」期間中に開かれる「コンクール・ド・レモン(Concours d’Lemons)」あたりに参加するのも、きっと楽しいかもしれない……?

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