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限りなく本物に近いポルシェは1700万円弱で落札! 改造にかけた費用を考えたら超お買い得だった「911 RSR レプリカ」の本気度を紹介します

9万ポンド(邦貨換算約1668万円)で落札されたポルシェ「911カレラRSRレプリカ」(C)Bonhams

73カレラRSRワークスカーに作り直された1981年型911SC

毎年7月、英国ウエストサセックス州チチェスターで開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(FoS)」は、世界最大級と称される自動車のお祭りです。世界各国から新旧の魅力的なクルマたちが集結し、有名なヒルクライムやオフロード走行が行われるほか、モーターショーさながらの展示ブースも設けられています。そして昨今の世界的イベントの例にもれず、オフィシャルオークションも催されるのですが、その重責を委ねられた名門ボナムズ社の「Goodwood Festival of Speed」オークションでは、誰もが認める素晴らしいクラシックカーにくわえて、ちょっと変わり種のクルマたちも見受けられました。

1973年のル・マンクラス優勝車へのオマージュから生まれたレクリエーション車

ポルシェ「911 カレラ RSR」の3Lモデルは、そのシャシーナンバー末尾の記号から「R7」という愛称で呼ばれ、間違いなくシュトゥットガルトで最もよく知られたレーシングモデルのひとつとなった。

1973年初頭に製造されたこの「レン・シュポルト」は、ギース・ファン・レネップ/ヘルベルト・ミュラー組がステアリングを握り、ニュルブルクリンク1000kmでレースキャリアをスタート。その後、ル・マン24時間レースにてスポーツ・プロトタイプ・クラス総合4位に入賞し、もちろんGTクラス優勝も果たした。

ほぼ同じ内容を持つ姉妹車「R6」が敗退するいっぽう、R7は市販車ベースのグループ4としては驚異的なパフォーマンスを発揮したことになる。R7よりも多い周回数を記録したのは、耐久レース専用に設計された12気筒3Lのグループ6プロトタイプ、マトラ・シムカ「MS670B」とフェラーリ「312PB」だけだったのだ。

R7とそのエアロダイナミクス開発の驚くべきストーリーに触発されたのが、今回のオークション出品車の現オーナーである。彼は、非凡なカレラRSRに乗りたいと考えていた。いっぽう1974年以降に市販された911のシャシーには、911カレラRSの特別な「グループ3」ホモロゲーション車両のすべての変更点が盛り込まれていたともいえる。

ベースは1981年式のポルシェ 911SC

ベース車両とした市販型911のモデルイヤーは1981年、つまり「911SC」だったため、オーナーはプロジェクトが完了した時点で、公道で同法的に走行するためのホモロゲーションを確保することができた。さらにいえば、2994ccのエンジン容量とシャシーはR7と基本的に同一である。くわえて、3.0SC用ブロックはもとよりFIA適合の鋳造番号を持ち、915/63ギアボックスも適合している。

このレストアおよび「レクリエーション」に際しては、まずはボディを解体し、公道走行にも適用可能なホモロゲーションによる6点式ロールケージを取り付けた。ボディは、有名なメアリー・スチュアートの3分割スポイラーを再現して作られた。

また余分な重量を抑え、1973年スペックに適合させるためフェンダーと開口部は複合素材で製作されたものの、この減量計画の唯一の例外はドア。公道走行も想定しているため、安全上の理由から依然としてシートメタル製とされた。

いっぽう、ボディのリバリーについてはル・マンのRSRと同じ、有名な「マルティニ」のカラーリングで完璧に仕上げている。

とことんやりつくしたつくり込みを思えば、かなりリーズナブル?

このほどボナムズ「グッドウッドFoS」オークションに出品されたポルシェ 911 カレラ RSR レクリエーションは、欧米で盛んなクラシックカーレースにも即座に対応できるスペックとされているという。サーキット走行を考慮して、トラックセッティングも可能な「ビルシュタイン」社製のショックアブソーバーが装着され、ランニングギアはフルアジャスタブル。特注のホイールリムは超軽量の鍛造アルミニウムで加工されている。

さらに外観から確認できる変更点としては、センターロックのハブや「917」と同じリムデザインが1973年モデルのRSR化に対応しているかたわら、FIAアペンディックスKに準拠したホモロゲーション済みキャリパーや、レース規格のブレーキパッドとタンデムマスターシリンダーシステムが装備され、性能に見合った制動力を発揮する。

現時点において3Lのフラット6エンジンはフルチェック済みながら、FIA仕様で要求される機械式インジェクションポンプやスライド式スロットルは備えていない。排ガス対策テストに合格するため、オーナーはこの車両にFIA公認ではないウェーバー46 IDAタイプのシステムを装着させたからである。

くわえて、サーキット用のステンレス製RSRタイプのメガフォン型エキゾーストは、公道走行に向けてスタンダードRSタイプのマフラーを装着できるようになっている。

さらに、パッセンジャー側にはFIAホモロゲート済みのバケットシートや6点式ハーネス、自動消火器システム、FIA公認のキルスイッチ、助手席側から調整可能なペダルボックスが装備されている。

製作には2年以上の期間を経て完成

1973年のル・マン24時間レースで活躍したワークスRSRに可能な限り近づけるため、この911 カレラ RSR レクリエーションの製作には2年以上の期間と、広範囲におよぶ時代考証的なリサーチと専用パーツの開発が不可欠となった。また、公道走行に供するためのホモロゲーションは維持され、公道を走ることのできる最も驚くべきポルシェのひとつとなったといえるだろう。

とはいえ、「FIA 3053」ホモロゲーションにほぼ適合しているため、たとえばポール・リカール・サーキットで開催される「2トゥール・ド・オルロージュ」など、多くの歴史的な競技イベントでそのまま出走することが可能とのことながら、「ピーター・オート」社主催の「ル・マン・クラシック」や「トゥール・ド・フランス」のような、より格式の高いイベントには当時と同じFIAスペックの機械式インジェクションを装着するなど、いくつかの改造が必要となることは確認されていたようだ。

この3L 911にはベルギー交通当局発行の車両登録証、乗用車として公道走行可能であることを証明するテスト報告書、FIA仕様に適合するよう施された改造の詳細が記載されたファイルも添付。これは落札者の要望に応じて入手可能であり、車両のコンディションに関する報告書に含まれるとのことであった。

今回のオークション出品に際して、ボナムズは9万ポンド~14万ポンド(約1668万円〜2594万円)という、レストアとレクリエーション化に投じた費用と労力を考慮すれば、かなりリーズナブルとも感じられるエスティメート(推定落札価格)を設定した。

そして2024年7月12日のオークション開催日。競売が始まってみると、ビッド(入札)の伸びはイマイチだったものの、それでも終わってみれば、エスティメートの下限ぎりぎりの9万ポンド。すなわち日本円に換算すれば、約1668万円で落札されることになったのである。

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