生産台数55台のレアなスパイカーがオークションに登場!
2024年8月15日〜17日にRMサザビーズがアメリカ・モントレーで開催したオークションにおいてスパイカー「C8ラヴィオレット」が出品されました。2009年のジュネーブ・ショーに展示された出品車は、ブラック、オリーブグリーン、サドルキルトレザーの素晴らしい特注カラーコンビネーションをまとった1台でした。落札価格とクルマの詳細をお伝えします。
じつは歴史が長いスパイカー
オランダのスパイカー・カーズという自動車メーカーを知っている人は、いったいどのくらいいるのだろうか。彼らがその哲学としているのは、「Nulla tenaci invia est via」という言葉。これはラテン語で「粘り強くやれば、必ずやその道は開ける」といった意味を持つもので、じっさいに19世紀にまずは高品質な馬車を製作するために設立されたスパイカー社は、それからさまざまな分野に挑戦。自動車が誕生したのは1888年のことであるというから、その技術的な革新性も彼らの大きな特長だった。
たとえば1903年に誕生したスパイカーのグランプリレーサーは、60psの最高出力を発揮する世界初の直列6気筒エンジンを搭載するモデル。さらに駆動方式は4WDを採用していた。1907年にはプライベーターの手によって、パリ~北京間の1万5000kmにも及ぶ過酷なラリーに参加し見事に2位完走という成績を残した。
だがここで彼らを襲ったのは第一次世界大戦による混乱で、スパイカーもまた自動車ではなく飛行機のエンジン生産などにビジネスの主力を置かねばならないようになる。戦後は再び自動車の世界にスパイカーは回帰し、1922年には「C4」で世界平均速度記録を樹立。だがその活動は1925年、突然その終焉を迎えてしまったのだ。
2000年に新型車を発表!
そのスパイカーが、クラシックカーのファンにはお馴染みのプロペラのエンブレムとともに復活を果たしたのは2000年のことだった。この年イギリスで開催されたバーミンガム・ショーに、スパイカーはその復活を象徴するかのような新型車、「C8スパイダー」を出品した。
それは航空機のようにいかにも優秀なエアロダイナミクスを想像させる、高性能なモデルであるとともに、航空機の世界にインスピレーションを得たデザインを数多く採りこんだ、まさにスパイカーの原点に回帰したモデルとも評された。ミッドに搭載されたエンジンは、アウディ製の4.2L V型8気筒で最高出力は400ps。これにゲトラグ製の6速MTを組み合わせ、後輪を駆動するのがパワートレインの構成だ。
2009年のジュネーブ・ショーにも展示された
そして翌2001年に発表されたのが、今回RMサザビーズがモントレー・オークションに出品したC8シリーズのセカンドモデルとなる「ラヴィオレット」である。そのメカニズムはC8スパイダーと共通だが、大きな違いはスパイダーのソフトトップルーフに代えて、固定式のガラスキャノピーが装備されたクーペボディが与えられていること。
このキャノピーにはルーフエアインテークが一体化され、ここからフレッシュなエアがリアのエンジンルームに送り込まれる仕組みとなっている。ちなみにラヴィオレットというネーミングは、1900年代初頭にスパイカーのレースカー開発に携わったベルギー人のエンジニア、ジョセフ・ヴァランタン・ラヴィオレットに由来するもの。100年以上の時を経て、その名はスパイカーの最新作に新たに掲げられることになったのである。
RMサザビーズによって45万~55万ドル(邦貨換算約6582万円~8044万円)のエスティメート(推定落札価格)が提示された。出品車は、スパイカーに詳しい自動車評論家のジャスパー・デン・ドッパー氏によれば、「最もコンディションが良く、走行距離が短く、そして最高のメンテナンスが施された、現存するスパイカー」であるという。
その走行距離はわずかに125km。2009年のジュネーブ・ショーにも展示された出品車は、ブラック、オリーブグリーン、サドルキルトレザーの素晴らしい特注カラーコンビネーション、およびファクトリーサウンドシステム、エアロブレードホイール、鋳造オイルフィラーキャップ、ステンレススチールエンジンカバー、専用ラゲッジなど、魅力的なオプションを多数装備したハイスペックな仕様だ。参考までにC8ラヴィオレットの生産台数は総計で55台。その希少性の高さがどう評価されるのかにも注目は集まった。
激しい入札の後に、最終的にハンマーが振り下ろされた価格は、58万2500ドル(邦貨換算約8520万円)。それはまだまだ将来の値上がりに期待が持てる数字だと評価してよいのではないだろうか。