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元国産メーカーのデザイナーが愛するランチア「アッピア ザガートGTE」のこだわりとは? 米国でフルレストア、内装トリムは自らミシンがけしました

ランチア アッピア ザガートGTE:元自動車メーカーのデザイナーであり、カラーのエキスパートとしても活躍したオーナーの牧野克己さん。愛車へもそうした経験が随所に盛り込まれている

50年代のランチア最小モデルをザガートが架装

現在はステランティスグループの中の1ブランドとなっているランチアは、1906年に設立されたイタリアの名門ブランド。WRCで名を馳せた「ストラトス」「デルタ」以外にも数多の魅力的なモデルを生み出してきました。ここで紹介する「アッピア ザガートGTE」のオーナーは、元は某国産自動車メーカーでカラーデザインを担当していたプロフェッショナル。そんな彼がフルレストアに際してこだわったポイントとは?

オーナーは自動車のカラーデザインの専門家

戦前から独創的なアイデアを詰め込み、また高品質な傑作の自動車を送り出してきたランチア。その歴史のなかでも1953年にデビューした「アッピア」は、当時の小型車にはない凝った設計のV型4気筒1.1Lエンジンを搭載し、ランチアが戦前から得意とするスライディングピラーと呼ばれる独立懸架サスペンションを採用するなど、「アウレリア」と並んで1950年代のランチアの傑作と呼ばれているモデルだ。

4ドアやベルリーナなど多くのバリエーションがあり、10年の間に10万台が生産された。そのラインナップには、ザガート、ピニンファリーナ、アレマーノ、ギアといったカロッツェリアのスペシャルボディをまとったモデルがいくつも存在している。

「ミナノはミラノ 勝手にイタリア祭」の会場で人目をひいていた、1960年製のランチア「アッピア ザガートGTE」は、その名の通り、ザガートによるボディが架装されたモデルである。鮮やかなブルーのボディカラーに、ベージュという内装色も見事に調和しているこのアッピア ザガートGTEのオーナー牧野克己さんにお話を伺ってみたところ、某国産自動車メーカーでの勤務時代は当初数年間エクステリアおよびインテリアを担当し、その後カラーデザインを専門とし、さまざまな車種の内外装色や素材開発の責任者でもあったというから、なるほどと納得した。

カロッツェリアの職人の技術の高さに感銘を受ける

もともと、ザガートには強い憧れを持っていたという牧野さんだが、アメリカのデザインセンター勤務時代の1995年にアバルト「750ザガート」を手に入れ、自らレストア作業も行った。その際、カロッツエリアの手作りボディには量産車とは違う魅力が随所に見らることに感銘を受けたという。

「空力、軽量を模索していた時代のデザインと機能の追求。それをカタチにするには職人の確かな技術が必要ですよね。ベアメタルのボディやパーツ類からは、そうした痕跡が各部から見えてくるんですよ。非常に楽しい時間でしたね」

その後1997年に帰国し、2013年に自動車メーカーを退社した牧野さんであるが、同年に新たな仕事でアメリカへ渡る。そして2017年の末にカリフォルニアで出会ったのが、このランチア アッピア ザガートGTEであった。そして購入後は早速レストア作業に取りかかったという。

「サウスカロライナのクラシックカー専門のショップに持ち込み、最初は、さらっと仕上げようというつもりでいたのですが、フルレストレーションをすることになり、ベアメタル状態にして驚いたんです。例を挙げると、ノーズの裏のアルミパネルには溶接の盛り上がりはなく、接着後のグリッド線が見えるのみで“ろう付け手法”と思われ、職人の技術の高さに驚きました。またフロアパネルの整理されたデザインに、ランチアらしいエンジニアのこだわりや美的センスも感じました」

>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)

4年半かけてレストアし、内装トリムは全て自分で作業

アッピア ザガートGTEのレストア中は2週間に1度の割合でショップに作業を確認に行くだけではなく、シートの形状、革の素材、トリムの色は、徹底的にオリジナルを研究したという。

「アメリカ人はオリジナルを尊重する気質がありますが、私は本来のデザインを活かすために、ディテールをスッキリさせてる部分もありますし、部分的には変更箇所もありますよ。例えばバンパーも安全対策のためのGTE用の大型のものから、小さなものに交換し、ライセンスランプのベースもすっきりとさせるために自作したものを取り付けています」

と牧野さんは教えてくれた。シートも同じザガート製のアルファ ロメオ「SZ コーダトロンカ」に使われていたレース仕様が偶然入手できたので、換装し軽量化するなどアップデートが施されている。

「ボディカラーは悩みました、アッピアはランチア車中、一番小さなクルマ。小気味の良さを色で表現したかった、最初は濃紺のランチアブルーにする予定でしたが、1/43モデルにあった鮮やかなブルーで正解だったと思ってます」

結局アメリカでのフルレストア作業は、帰国直前までの4年半にもわたったという。

「インテリアトリム類は全て自分でレストアしました。シートも2カ月かけてミシンで縫ったんですよ。シンガーのヘビーデューティミシンを買ったのですが、妻の家庭用のブラザーの方が使いやすかったな(笑)」

そうして帰国ギリギリまで作業していたアッピア ザガートGTEは、2022年も終わる頃に、晴れて日本で車検を取得。今回でイベントへの参加は3回目、細部の調子も心配ない状態で、これからもイベントを楽しみたいそうだ。

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