充電器問題さえクリアできればアリ!
2020年にはEVフォーミュラマシンによる世界最高峰レース、FIAフォーミュラE選手権の併催レースである「ジャガー I-PACE eTROPHY」に参戦していたこともある、車いすドライバーの青木拓磨選手。EVの可能性を確認するために定期的に車両を借りてチェックしています。今回は、青木選手にとってBYDのEVセダン「シール」はどう映るのか聞いてみました。
BYD シールとはどんなクルマ?
青木拓磨選手は、障がい者とEVというテーマで、車いすユーザー目線からことあるごとに最新EVをチェックしていて、今回、借り出したのはBYDの最新モデルである「シール(SEAL)」である。
BYDの日本導入3機種目となるシールは2024年6月から販売されている。ボディサイズは、全長4800mm×全幅1875mm×全高1460mmのEVセダンである。ホイールベースは2920mmと長く、BYDがCTB(Cell to Body)と呼ぶボディとバッテリーを一体化した構造によるものだ。駆動バッテリーの容量は82.56kWhで、後輪駆動モデルで230kW(312ps)/360Nmを発揮し、1充電あたりの航続距離は640kmとなっている。
CTBでねじり剛性も大幅にアップしたことにより、車両はしっかりした造りとなっている。その床下に広げたバッテリーパックにより床面のサイズは大きめといえる。そのためサイドシルからシートまでの距離が若干大きく取られており、じつは車いすからの移乗では気になる部分でもある。青木選手はこうコメントした。
「移乗のための台のようなものを用意できると筋力の少ない方でもうまく移乗ができますね」
乗り込んで最初に目に飛び込んでくるのが、15.6インチの回転電動式タッチスクリーン。90度回転するこのディスプレイは縦でも横でも使うことができる。ガジェット好きな青木選手は、この回転ディスプレイを絶賛していた。ちなみにDシェイプの本革ステアリングの奥にもメーターディスプレイがある。
そして見上げると、天井部分がまるまるガラスとなっているパノラミックガラスルーフ。それも継ぎ目のない1枚もので、開放感があり、後席の足元スペースも広く居住性は高い。リアのトランク容量は400Lで、フロントにも蓋つきトランクが設定されている。
青木拓磨がBYDシールで感じたこと
早速ハンドドライブユニットを装着して実際に走り出してみる。アクセルペダルの踏み込みで唐突にパワーが出るわけでもなく、回生ブレーキもあまり強くない。ガソリン車からの乗り換えでも、簡易的なハンドドライブユニットで多少ラフな操作でも違和感がない。
その走りについて青木選手は、次のようにコメントした。
「軽快で高級感にあふれている。重心の低さやボディ剛性の高さもあって、急カーブでもロールが少なく、ロングホイールベースのボディの大きさを感じさせない走りがすごく印象的だった。もちろんEVらしく静粛性は極めて良い。シートは大きめで座り心地もサポート性もしっかりある感じで、ブレーキもカチッとよく効いてしっかり止まって好印象」
充電環境のバリアフリー化はまだまだ
「ありかも、BYD!」とCMではあの女優さんが言っているが、青木選手も「マジでありかも」としきりに繰り返していた。実用でまったく不満のないレベルの航続距離を誇っているし、現在急速にBYDのディーラー網も整備されていて購入後も不安はなさそうである。
ただ、EVで気にせねばならないことがもうひとつ、それが充電環境である。青木選手にしてみれば、
「残念ながら現在EVの充電インフラの整備については今ひとつ」
だという。今回は撮影も兼ねて横浜近郊で走行と充電シーンの撮影を行ったが、やはり充電環境のバリアフリー化がまだまだだということを実感する機会ともなってしまった。
高速道路のSAなど、ようやく最近では、ダイバーシティという視点で改修設置が行われており、少しずつ改善が進んでいるものの、旧来から設置されている急速充電器の刷新がすべてに対して行われていなかったり、レイアウト上難しかったりという充電ポイントも少なからずある。
大黒PAでは、新型の充電器が設置されていながら、まだ駐車スペースと歩道との間に段差があったり、車止めのポールなどで車いすの進入ができなかったりしていた。さらに充電プラグを持ちながら車いすで移動することができないような充電機のレイアウトや、車いすからでは画面を見ることができないような操作機のパネル位置であった。
内燃機関車両であれば、セルフとフルサービスのスタンドがあるので選択すればいいのだが、残念ながら急速充電のサービスはセルフ方式のみ。車いすドライバーでも車両から降りて、自身で充電操作をしなければならないという状況になる。それを考えるともう少しこのインフラの整備に期待したいところだ。
そういった中で今回気になったのが、横浜みなとみらい地区にある充電器。びっくりすることに、充電プラグが充電器本体から離れたところに掛けられていること。充電ケーブルの重さをいかに解消するかという課題がある中でのひとつの答えのようだが、ケーブルを伸ばす手間がかからないというだけで、やはり車いすユーザーには厳しい環境であった。ケーブルを這わせることで車いす自体の進行を妨げることにもなるので難しいところといえる。
話はそれてしまったが、
「BYDシールはそんな懸念も打ち破るだけの魅力がある。それが圧倒的な安さ」
だと青木選手。RWDモデルの価格はなんと528万円(消費税込)。AWDは605万円(消費税込)である。補助金などで実勢はもっとリーズナブルになる。その意味では「アリな選択だ」というのが青木拓磨選手の答えだった。中国製というところで多少偏見があるかもしれないが、それでも十分に候補に挙げられる1台である。