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約3000万円で落札されたポルシェ「911 カレラRS アメリカ」は何か変! 実は新車の頃からシュトロゼックのボディキットが装着されていました

19万3200ドル(邦貨換算約2960万円)で落札されたポルシェ「911 カレラRS アメリカ」(C)Bonhams

「RSアメリカ」って? 知られざるポルシェ964 カレラRS

オークション業界における世界最大手の座を「RMサザビーズ」社と争っている英国「ボナムズ」社が、2024年8月16日に米国カリフォルニア州カーメル近郊にて開催した「The Quail 2024」オークションでは、ポルシェ「911 カレラRS アメリカ」という聞きなれない名称のポルシェ964系911、しかも時代感を感じるボディキット満載の1台が登壇しました。車両の詳細とオークション結果についてお伝えします。

今や伝説の964 カレラRSには、別枠のアメリカ仕様が存在した

1989年に、まずは4WD版の「カレラ4」として発表されたポルシェ964系「911」は、親しみやすいフォルムはそのまま、メカニカルな面でより広範囲な改良が施された。

直後に登場した「カレラ2」ともども3.6Lの空冷水平対向6気筒エンジンを搭載し、911では初となるパワーステアリングやABSが装備されたほか、従来と同じ5速MTにくわえて、「ティプトロニック」4速ATがカレラ2のみに設定された。

そして1991年には、「1992年モデル」として1970年代の伝説的な「RS2.7」および「RS3.0」の系譜を復活させた「911 カレラRS」が発表されることになった。

新生カレラRSは、当時開幕して間もない「カレラカップ」選手権用のコンペティションカーをベースとし、ヨーロッパおよび日本でのみ販売。基本はエアコンさえ装備されないスパルタンなモデルながら、標準型カレラ2/4に装備されていた公道走行可能な装備のほとんどを維持した「ツーリング」バージョンも設定された。

軽量化のためにパワステやエアコンなどは非装着

パワーユニットは、カレラ2/4用の3.6Lを継承しつつも、最高出力を260psにアップ。フライホイールを軽量化してレスポンスを向上させた。また「G50/10」型5速トランスミッションには、よりクローズドなレシオと非対称リミテッドスリップディファレンシャル、スチール製のシンクロメッシュが採用されたかたわら、サスペンションもローダウンされて剛性を向上させた。

くわえて、デフォルトたるライトウェイトバージョンでは内装材を完全に取り払い、パワーステアリングやパワーウインドウ&シート、リアシート、エアコン、クルーズコントロール、消音材、オーディオシステムなどが取り外された代わりに軽量レーシングバケットシートが2つ装着された。

964 カレラRSは、1993年ごろまで少数が生産されたが、当初の輸出対象ではなかったアメリカに向けた「1993年モデル」として「911 カレラRS アメリカ」が用意されることになった。

RSアメリカは、250psの標準型カレラ2エンジンとギアボックスを流用しつつも、RS用の17インチホイールや「M030」スポーツサスペンションを標準装備。特徴的な「ホエールテール」スポイラー、部分的に除去された内装材と簡素なドアパネル、軽量カーペットなどを特徴としていた。

また、軽量化のためパワーステアリング、クルーズコントロール、電動サイドミラー、エアコン、サンルーフ、オーディオは削除されていたが、これらの豪華装備はオプションで注文できたという。ポルシェ本社の資料によるとRSアメリカの車両車重は1340kgで、標準型カレラ2より35kg軽量であったとのことである。964 カレラRS アメリカは翌「1994年モデル」としても生産され、最終的には701台がラインオフしたといわれている。

懐かしい「シュトロゼック」のフルキット車は、中東の王子様がオーダー

この夏、ボナムズ社の「The Quail 2024」オークションに出品された964 カレラRS アメリカは、「ガーズレッド」レッドのボディにブラックのインテリアという象徴的なカラーコンビネーションで仕上げられた、アメリカ合衆国マーケット向けの1台。バーレーンの王子のひとりが新車で購入した、と伝えられている。

また、2008年に「シュトロゼック・デザイン」社のマリータ・ノイマン女史から前オーナーに送付されたEメールによると、この964 カレラRS アメリカには新車に近い時期からシュトロゼックの「バージョンI」ボディキットが装着されていたという。

このボディキットは、フロントバンパーにサイド/リアのスカート、リアウイングフード、左右ドアミラー、スポーツエグゾースト、モノブロック17インチホイールによって構成されたもので、前述のノイマン女史は「944ターボのウインカーが付いた非常に珍しいフロントバンパーセクションは、私もお気に入りです」とメール内で記述している。

登録および保険の書類から、このカレラRS アメリカは1993年から1994年までバーレーンにあったことが判明している。王子はこのクルマを、のちに2代目オーナーとなる彼の友人で石油王のアンソニー・リスターに譲渡した。口頭で継承されたヒストーによれば、シェイクはリスターにこのRSアメリカを売り込む際に、公道を封鎖して、180mph(約290km/h)で走ることができると証明してみせたという……!

魅力的なヒストリーを持つ964 RSアメリカ

オークション出品にあたって添付されたファイルに含まれていたドキュメントによると、リスターは少なくとも2006年まで所有していたそうだが、そののち友人に売却した可能性があり、最終的には2010年に前オーナーが「コイズ・オブ・ケンジントン」社のオークションで購入するに至った。

それからさらに13年後、約1年前に今回の出品者でもある現オーナーが入手。現在では高品質なペイント修正とセラミックコーティングが施されている。さらに直近ではオイルとフィルターが交換され、新品のハンコック社製タイヤも履き替えられたばかりという。

また、北米モンタナ州での登録書類とともに、純正ツールロールと2本の専用キー、警告灯、ボディキットのアップグレードを確認するシュトロゼック・デザイン社からのEメール、「RSアメリカ」としてのレジストリー・データベース文書、米国内MoT車検書、バーレーン時代の登録書類にラミネート加工されたバーレーン国内の保険証書などにくわえて、これまで行われたメンテナンスの請求書と履歴ドキュメントを収めたフォルダも車両に添付しており、これらはすべて落札者に引き渡されるとのことだった。

「この素晴らしく、ユニークで、走行距離の少ない、魅力的なヒストリーを持つ964 RSアメリカは、その名の由来となった国で、オープンロードを探検する準備が整いました」。そんなPRの一文を添えて、ボナムズ社は17万5000ドル~27万5000ドル(邦貨換算約2590万円〜約4070万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。

そして迎えたオークション当日の競売では19万3200ドル、日本円に換算すれば約2960万円での落札となったのだが、このハンマープライスは現在における欧州向け964 カレラRSの相場価格よりは、若干ながら安価といえる。

とはいえ、新車の時代から並行輸入で日本にやってきた964 カレラRS アメリカは、当時の「ミツワ自動車」が輸入した正規物のカレラRSよりもおおむね安価で販売されていたこと、あるいはそののちのユーズドカー市場でも、欧州向けオリジナルRSよりはリーズナブルな価格で推移していたことを考慮すれば、今回の落札価格も納得のゆくものだったのではないだろうか……。

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