完全EV化はハードルが高すぎたか
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「日産自動車の業績」についてです。日産自動車が発表した2024年4月から9月までの中間決算で、アメリカでの販売不振もあり90%の減益に。その理由などを解説します。
世界的にはハイブリッドの流れだが日産には……
「ハイブリッドが急速に伸びるのを読めていなかった」
日産の経営が揺らいでいます。2024年9月の中間連結決算は、最終損益が前年同期比で93.5%減の192億円に激減しました。対策として、世界で9000人を削減するリストラを発表、日産はグループを含めて13万人の従業員と家族を支えています。9000人削減はかなりの数字ですね。
冒頭の言葉は、決算発表会の席で、内田 誠社長が口にした詫びのコメントです。
大企業の経営が簡単ではないことは誰にでも想像できることですが、このコメントに違和感を覚えた人も少なくないような気がします。
世界的なカーボンニュートラルの流れを受けて、走行中に(限って)いっさいのCO2を排出しないBEV(バッテリーエレクトリックヴィークル)が、地球温暖化を止める救世主のように崇められて久しいものの、最近では雲行きが怪しくなりましたね。
世界の多くのメーカーが、内燃機関を捨てて電気モーターに救いを求めたのですが、メーカーが期待するほどBEV化は進んでいません。BEV化戦略の撤回や延期、達成時期を遅らせるメーカーも現れました。ドイツはいち早く内燃機関との決別を推進した国ですが、やはり撤回、もしくは達成期間の延期を宣言しました。政府が朝令暮改、前言撤回するとは驚きでしたね。
ただし、僕のような平民は、そんなに急速に電動化時代になるとは想像していなかったような気がします。メーカーや政府が計画するほどBEV時代になるとは思えません。
「やっぱりね」
「ほら見たことか」
後出しジャンケンのようで心苦しいのですが、僕らの周りは同意見多数でしたね。
欧州でも完全EV化には慎重の姿勢
政府が期待するようにBEVが普及したら、高速道路のサービスエリアなどに、100基規模の急速充電器が必要だと試算されていましたし、そのためには化石燃料発電を活性化させる、あるいは原発を増やさなければ賄えないとの話もありました。
そもそも急速充電に30分が必要であり、夏や冬の遠距離ドライブはストレスですね。BEV化を否定する気はありませんし、実際に僕は内燃機関だけではなくBEVも所有しています。BEVにもメリットはあるとは思います。ですが、当面は内燃機関と電気モーターを合体させたハイブリッドが現実的です。計画どおりのBEV化は不可能であることは、肌感覚でも想像できることでした。
だというのに、日産の船頭は「ハイブリッドが急速に伸びるのを読めていなかった」と……。
個人的には日産は好きなメーカーです。クルマへの愛情は並々ならぬものがあります。他メーカーが手を出せない「GT-R」や「フェアレディZ」を生産し続けてくれています。少々不器用なところがありますが、愛すべきメーカーです。ですが、この度のBEV化は拙速しすぎましたね。
僕はレースに参戦するためにドイツを訪れますが、彼の地のメーカーはしたたか。ドイツ国民もドイツ政府が発表したような電動化は達成できないと予想していたようです。いずれ政府も前言撤回すると予想していました。政府の強引な電動化宣言は、撤回前提での打ち上げ花火だと覚悟していたのです。
ですから、ドイツの自動車メーカーも、内燃機関の開発は続けていましたし、過剰なBEVシフトはしませんでしたね。したたかなのです。VWを除けば……。
もっとも、日産には技術的なバックボーンがありますし、いずれ復活してくれると信じています。ただしそのためには、庶民感覚に敏感な経営者が必要なのかもしれませんね。