モータースポーツ用のブレーキとしては理想的
同じ車重、同じタイヤ、同じ速度からブレーキを踏んだときの制動力は、じつはどんなブレーキシステムを採用していても大差がありません。ドラムブレーキや鉄製の片持ちキャリパー、大径ローター+ビッグキャリパーでも基本的にはみんな同じです。
最近の高性能車にはブレーキの容量が追いつけない?
タイヤをロックさせるだけの制動力を持っていれば、単発の制動距離はブレーキシステムでは変わらない。「制動力=タイヤをロックさせる力」だとすれば、ディスクブレーキよりむしろドラムブレーキの方が優れているぐらいだ。では、高価で大きなブレーキに意味はないのかというとそんなことはない。
大径ローター+ビッグキャリパーは、熱容量が大きく、制動力の変化が一定で、安定感が高い。ブレーキは車体の運動エネルギーを熱エネルギーに変換するシステムなので、熱をどれだけ逃がせるかで、容量が変わってくる。
ブレーキの熱容量は、比熱が同じなら重量が重ければ重いほど大きい。したがって、ディスクブレーキで熱容量を大きくしようとするには、ローターは大きく、厚く、重たいものにしなければいけないということだ。
しかし困ったことに、高性能車は年々車重が重く、エンジンパワーが強大になり、タイヤのグリップ力が上がってきたため、ブレーキの容量はどれほどあっても追いつかなくなってきてしまった。
ホイールは18インチ、19インチ、20インチと大きくして、大きなローターを収めても、熱容量は十分とはいえなく、何よりブレーキが大きくなってバネ下重量が重くなると、タイヤの路面追従性が悪くなる。バネ下重量の影響は、バネ上重量の15倍に相当するといわれ、バネ下重量の増加は、グリップ力、乗り心地、俊敏性のすべてをスポイルしてしまう……。そこで考案されたのが、カーボンセラミックブレーキだ。
鋳鉄のディスクローターより約50%も軽い!
カーボンセラミックブレーキは、カーボン繊維やカーボンの粉末を樹脂で固め、特殊かつ複雑な製造工程で混合し、1700℃の高温と真空状態で化合して作られるローターを使ったブレーキのこと。カーボンセラミックのディスクローターは、鋳鉄のディスクローターより約50%も軽い。
この軽さのおかげで運動性能を犠牲にせずに、ブレーキ容量を確保できるようになり、レーシングカーからスーパーカー、ハイパフォーマンスカーまで、積極的に採用されるようになってきた。
また、カーボンセラミックブレーキは、軽さだけでなく、強度、形状安定性、耐久性ともに、スチールディスクを上まわり、セラミック素材は腐食に強く、制動時の騒音抑制にも効果的。そして、摩擦力が非常に高く耐熱性が高いため、モータースポーツ用のブレーキとしては理想的といえる。
価格も恐ろしく高い……
そんなカーボンセラミックブレーキにも弱みがある。それは価格がべらぼうに高いこと。量産車で最初にカーボンセラミックブレーキを採用したのはポルシェだが、そのポルシェセラミックコンポジットブレーキ=PCCBのオプション価格は、1台分150万円以上。ホンダの「NSX」(NC1)のカーボンセラミックブレーキのオプション価格は116万円で、日産のR35「GT-R」のスペックVに用意されたニッサン・カーボンセラミック・ブレーキなどは、1台分500万円!
小心者なら1回ブレーキを踏むごとに、何万円分ローターが削れていくのかが気になり、フルブレーキが踏めなくなってしまうかもしれない……。