誰かの支えがあれば再びバイクに乗ることができる
身体機能の低下でさまざまなことができなくなることがあります。バイクは自立をしていないうえに四肢で操作をするという性格上、4輪と比べ、乗れなくなる可能性が高いです。とくに交通事故などで身体欠損や重い機能障がいを負ってしまうとバイクから降りざるを得ないことも多いものです。そんなバイクをあきらめた人に向け、誰かの支えがあれば再びバイクに乗ることができ、そして自分の持つ夢もあきらめないことを応援する一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)が、3度目となる箱根のツーリングを2024年11月30日に敢行しました。
アネスト岩田 ターンパイク箱根を貸し切り開催
SSP(サイドスタンドプロジェクト)は生まれつきの障がいを持った方はもちろん、事故や病気によって身体の自由が効かなくなってしまった方に、バイクに乗る機会を提供。障がいを負ってもバイクに乗れることを実際に体感し、バイクの楽しさを広く知ってもらいたいとの思いで活動を展開している団体だ。レジェンドライダーとして知られる「青木三兄弟」の三男であり、WGP(GP125クラス)で2度の世界チャンピオンを獲得し、現在はオートレーサーとして活躍している青木治親選手が理事を務める一般社団法人である。
その主たる活動はバイクを体験できる「パラモトライダー体験走行会」である。これは、バイクはもちろんライダーとしての装備一切をSSPが持ち込んで、サーキットや自動車学校、そして駐車場などのクローズドコースを会場として定期的に開催している。
参加するのは、事故や先天性の障がいを持ったパラモトライダーだけではなく、そうした彼らを支えるボランティアスタッフも広く門戸を広げている。自立しないバイクだが、誰かがこれを支えることによってバイクを走らせることができる。それを体験できる機会も提供をしており、ボランティアスタッフの多くは、バイクに乗る楽しみを知っているライダーが大半であるが、最近ではバイクも知らないし、ボランティア活動も行ったことがないという方も多く参加している。
「パラモトライダー体験走行会」自体は、バイクを体験する機会というのがその主たる内容だが、その先に目標を持ってもらいたいと、団体設立当初からSSPでは「パラモトライダーによるツーリングの機会」を設けたいという目標を持っていた。それが箱根ターンパイクを使用した箱根のツーリングである。
事故によって障がいを負ってしまった元ライダーは、その事故を契機に2輪の免許も失ってしまう者も多い。そのため、一般公道でありながら免許の有無は関係なく走行できる場として、神奈川県にある「アネスト岩田 ターンパイク箱根」での走行を目標にしてきた。有料観光道路であるこの箱根ターンパークでは貸し切りによる占有走行が可能だからである。
その第1回目が行われたのは2022年9月のこと。それから毎年開催してきており、今回で3回目となる(今回は9月の開催時期に台風10号の接近があったため11月に開催を延期した)。
バイクに乗る感動の1日がまたやってきた
「パラモトライダー体験走行会」に参加したパラモトライダーのうち、技術レベルに問題ないと判断されたライダーが招待され、今回は14名のパラモトライダーが集まった。このイベント「やるぜ!!箱根ターンパイク」は、パラモトライダーが自分の仲間と一緒に箱根をツーリングするというもの。そのため、各パラモトライダーが8名まで仲間を呼んで一緒に走行できるという形式となっている。
コースは、箱根ターンパイクの箱根小田原本線を箱根大観山口からスタート。小田原料金所手前でUターンし、また大観山まで戻ってくる約28kmの道のりとなる。電動アクチュエーターのシフト操作ユニットを装着している5台の大型バイクをSSPが用意し、5人のパラモトライダー・グループで走行をしていき、これを3回繰り返すこととなった。
パラモトライダーのヘルメットには「B+COM」というインカムを装着してサポ-トライダーと会話ができるようにし、先導と追走の車両がパラモトライダーの車両の前後に寄り添い緊急時に対応する、という仕組みとなる。
1度に5名のパラモトライダーを走らせることから、スタート&ゴール地点で移乗や発進停止のサポートするボランティアスタッフも5チームが編成され、それとは別に医療スタッフ、そしてコースサイドでのサポート役もあって、総勢120名ものボランティアスタッフがこの活動を支えることとなった。
2024年11月30日(土)、ターンパイクの本線上にはいくつもの紅葉スポットが出現。さらに大観山口からは冠雪した富士山をしっかり見ることができる絶好の冬晴れの1日となった。寒いことは寒いが、日中は好天の影響もあって日なたにさえいればポカポカと過ごしやすい。
午前11時から走行はスタート。それぞれ各パラモトライダーが数分ごとに出発。それを仲間のライダーが追いかけて合流する形で各車両がターンパイクを往復していく。戻ってきたパラモトライダーはゴール地点にいる全スタッフから祝福の拍手で迎えられる。
そんな感動のシーンを繰り返し、予定通り午後2時には占有走行時間は終了し、全14名は事故なく走行を終えることとなった。
参加者の1人は次のようにコメント。
「今年は寒いから、ほんとうはちょっと嫌だなと思っていたんですが、走ったら今日が一番気持ちよかったですね。夏の気持ちよさとは違って空気が澄んでいて最高でした」
主催したSSPの青木治親代表理事は
「無事に3回目の箱根を終えることができました。これでSSPはまた一歩大きく前進したと思っています。来年以降も続けられる限り箱根のイベントをやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします」
今回はパラモトライダー14名のうち2名が初箱根となった。「パラモトライダー体験走行会」に参加しているライダーの中には箱根参加希望でありながら技術レベルが達していないライダーもいて「来年こそは参加したい」と箱根参加を熱望しているライダーもいる。これからも継続してこの箱根のイベントが発展して開催されていくことに期待したい。