もはや高価なのは「ヴェトロレズィーナ」だけじゃない?
2024年9月、英国チチェスター近郊で開催されたサーキットイベント「グッドウッド・リバイバル2024」のオフィシャルオークションとして、英国「ボナムズ」社が開いた「Goodwood Revival Collectors’ Motor Cars and Automobilia 2024」では、珠玉のクラシックカー/ヤングタイマーはもちろん、「オートモビリア」と呼ばれるエンスージアスト向けグッズに至る、約180ロットが出展されました。今回はそのなかから、1台の「フェラーリ308GTB」を紹介します。
スポーツカー冬の時代に誕生した佳作、308GTBとは?
フェラーリ「308GTB/GTS」は、オイルショックと安全対策のため、スポーツカーにとっては「冬の時代」と呼ばれた1970年代半ばに誕生しつつも、この種のスーパースポーツとしては空前の大ヒット作となった。
1975年のパリ・サロンにて発表された美しき308GTBは、ベルトーネにデザイン/架装を委ねた「ディーノ308GT4」に続く、フェラーリにとっては2台目となるV型8気筒エンジンを搭載したロードカー。ディーノ「246GT/GTS」の後継車と位置づけられながらも、当初から「フェラーリ」ブランドでのリリースとなった。
ホイールベースと車重の減少を除けば、308GT4からメカニカルパートの変更はほとんどなく、横置きに搭載された3Lの4カムエンジンもそのまま。しかし、308GTBを時速150マイル(約240km/h)以上に加速させるには充分な、255psの出力を発生した。
いっぽう、世界中の愛好家を魅了したディーノGTのグラマラスなプロポーションを生かしながらも、巧みにモダナイズを施したボディは、この時代のフェラーリの定石どおりピニンファリーナのデザイン、スカリエッティのコーチワークによるものである。
初期モデルはFRPボディを採用
ただ、発表当初は当時のイタリアで吹き荒れていた労働争議のあおりを受けて、当初予定していたスチール製ボディパネルの生産が間に合わなくなる可能性が高まっていたため、マラネッロ製ストラダーレとしては初めての経験となるFRP製のボディが架装されることになる。しかし、当時のフェラーリにとってFRPボディの採用は、あくまで苦肉の策であり、1977年6月以降の生産分はスチール製に置き換えられることになった。
また、1977年秋のフランクフルト・ショーでは、ディーノ246GTSの後継車に相当するデタッチャブルトップ版の308GTSも追加。ディーノGTSと同様、とくに北米マーケットで高い人気を博し、シリーズの大半を占める人気モデルとなった。
さらに308GTB/GTSは、エミッション・コントロールのための燃料噴射化した308GTBi/GTSi(1981年)、失われたパワーを回復するために4バルブ化したクアトロバルボーレ(1983年)を経て、1985年には328GTB/GTSに進化する。
しかし爽快無比なドライバーズカーであり、「フェラーリ純粋主義者」にとっての喜びともいえる存在でもあった308GTBとその派生モデルは、マラネッロにとっては初となる商業的な大成功を収め、じつに1万2000台以上が販売されることになったのだ。
2023年にフルレストアを行っている
このほど、ボナムズ「Goodwood Revival Collectors’ Motor Cars and Automobilia 2024」オークションに出品されたフェラーリ308GTBは、1979年式の英国仕様。今回の出品者でもある現オーナーが1988年から所有し、2004年に至るまでの夏の間、定期的に使用されていたというヒストリーを持つ個体である。
それ以来は車庫保管されていたというこのフェラーリは、2023年にフルレストアされ、完成後は「最小限の走行距離」しか走っていない。しかし、エンジンは6000マイル(約9600km)前に、トランスミッションは同じく7000マイル(約1万1200km)前に大規模なオーバーホールを受けているという。これら一連のリビルドには約12万ポンドの費用がかかり、工程のすべてはインボイスと写真によって記録されている。
長い間、熱心なオーナーによって大切に維持されてきたこのフェラーリには、名門「マラネッロ・コンセッショナリー」社との間で交わされた販売・納車、スペックに関する書類や、1979年から1988年までの数多くのサービス請求書など、膨大な履歴が残されているほか、もちろん現オーナーに向けて発行された1988年以降の請求書も揃っている。
現状のコンディションは「エクセレント」で、スペースセーバーでないフルサイズのスペアホイール、新品のインテリアフロアマット、継続取得から間もない「MoT」車検証および、英国内の登録履歴を証明する「V5C」シートも添付されていた。
308GTBヴェトロレズィーナに迫るエスティメートが提示されたが……
同じ308GTBシリーズの中でもFRPボディ時代の通称「ヴェトロレズィーナ」は最もマーケット相場価格が高く、とくに昨今ではディーノ246GTの高騰に引き上げられるかのように、3000万円超えも珍しくはなくなっている。
そのかたわら、スチールボディに独ボッシュKジェトロニックを組み合わせた308GTBiは比較的安価なことが多い。そして、今回のオークション出品車のようなスチールボディ+キャブレター仕様の308GTBと、32バルブヘッドを与えられた最終型308GTBクアトロバルボーレがそれに次ぐ相場価格で取り引きされているようだ。
そんな相場観のあるなか、ボナムズ社の営業部門は今回のオークション出品にあたって8万ポンド~12万ポンド(邦貨換算約1560万円〜約2360万円)という、ヴェトロレズィーナの相場価格にも迫りそうなエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが実際の競売では出品サイドの規定した「リザーヴ(最低落札価格)」には到達せず、残念ながら「流札」に終わってしまったようである。
たしかに、ここ数年の国際マーケットではスチールボディであっても4キャブレターの308GTBなら、ヴェトロレズィーナに近い価格で取り引きされている事例もあるようだが、残念ながら今回はそれほどうまくいかなかったということと思われよう。