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ジャガーは既存のカスタマーを見限ったのか!? 何者にも似ない新たなジャガーはどこへ向かう?「タイプ00」を見て思うこととは【AMW深読ミ】

ジャガー タイプ00:2024年12月にマイアミで開催されたマイアミ・アートウィークにおいてお披露目されたコンセプトモデル

ブランド新時代を体現するコンセプトカー

そこそこ売れるけれども儲からないブランドになってしまったジャガーが、巻き返しを図るべく大胆な「Reimagine(リイマジン=再構想)」戦略を行いました。本社テクニカルセンターで新ブランド戦略のプレゼンテーションとともに、そのシンボルとなる「タイプ00」をじっくりと観察。新時代に向けたジャガーをレポートします。

ジャガーはどこへ向かうのか

年間6.8万台。2023年におけるジャガーの販売台数である。この数字をどう捉えるか。たとえばフェラーリは年間1.4万台、ポルシェは32万台。いずれも業績は好調というから、要するに販売台数だけでは判断できない。会社の規模もいろいろなのだ。ゆえに1台あたりの利益をいかに高めていけるか。それがプレミアムブランドの戦略を語るうえで最も大事な要素のひとつになる。

ジャガーブランドの認知度は、少なくともクルマ好きのなかでは上位に位置づけられるはずだ。だから7万台規模でもビジネスを続けることは十分にできるだろう。実際、同門のレンジローバーやディフェンダーは合わせて10万台規模ながら大きな利益を上げている。ではなぜ、今のジャガーが瀕死の状態に陥っていると言われるのか。それはやはり売れ線モデルの価格帯である。

ジャガーとほかのJLR(ジャガーランドローバー)ブランドとの違いは明らかで、ランドローバー「レンジローバー」を買おうと思えば2000万円を超えてくるし、「ディフェンダー110」でも1000万円超えだ。対してジャガーの売れ線(セダンやSUV)はおおむね1000万円以下。この差は大きい。

とはいえ、今の路線を続けていく限り、そうやすやすと価格帯を引き上げることは難しい。レンジローバーは上手くいったけれど、同じような戦略をとってきたにも関わらずジャガーは失敗した。フラッグシップモデル(ジャガーなら「XJ」)の位置付けを読み間違えたからだ。頂上を引き上げない限り裾野は広がらない。結果、ジャガーはそこそこ売れるけれども儲からないブランドになってしまった。英国で最も有名かつ人気のある老舗ブランドのひとつであったというのに……。

自らのヘリテージにも影響されないほどの大胆さ

ブランド力がまだあるうちに、そしてJLR(ジャガーランドローバー)社としての業績が好調なうちに、抜本的な対策を採ろう。それが今回の大胆な、そして騒動を巻き起こした「Reimagine」戦略の大まかな背景である。

ロゴからマーク、ジャガーシンボル、コーポレートカラーイメージ、とにかく全てを変えてきた。そしてもちろん、クルマそのものも、販売の現場も、サービスのクオリティも全て変える予定だ。メインテーマは「Copy nothing」。何者にも似ない。外部はもちろん自らのヘリテージにも影響されないほどの大胆さ、だと言っていい。

変革とヘリテージのバランス感覚

そのシンボルとなるべきコンセプトデザインがマイアミデザインウィークで披露された「タイプ00」である。筆者は2024年12月にマイアミで披露される前に英国ゲイドンの本社テクニカルセンターで新ブランド戦略のプレゼンテーションを受け、実車もじっくりと観察してきた。

グループの新しいフルバッテリー駆動アーキテクチャーを使うBEVである。昨今、BEVを取り巻く環境は急激に悪化しているが、少なくともジャガーの首脳陣はラインナップのフルBEV化に今なお迷いはなさそうだ。「信念を貫く」。彼らはことあるごとにそう付け加えた。

デザインコンシャスであることはいうまでもない。比較的レイアウト自由度が高いと言われる大型のBEVながら、古典的なロングノーズとチョップドルーフ、バタフライドアをもち、その一方でリアから眺めればウィンドウが廃されているなど、野心的なデザインであることは間違いない。

居心地の良さが求められるクルマのトレンドにふさわしい仕上がり

サイズ的には全長5000mm×全幅2000mm×全高1300mm、ホイールベース3000mm超あたりといったところで、じつは驚くほど大きいモデルではなかった。実物もたしかに大きく見えるのだが、それは全幅に対して全高が低く、さらに異様なまでにキャビンが後ろにあったからだろう。1960年代初頭にジャガー「Eタイプ」を初めて見た当時の人たちが同じような違和感を持ったのかどうか。タイムマシンがあれば確かめてみたいところだ。

外観以上にインテリアもぶっ飛んでいた。なるほど、未来のゴージャスなラウンジを見ているような気分で、自動車に「居心地の良さ」が求められる時代にふさわしい仕上がりだ。

市販モデルの第1弾は4ドアGTになるとすでに発表されており、偽装されたプロトタイプが走行テストを行う写真も公式にリークされている。注目すべきはタイプ00の内外装の特徴がかなり再現されているという情報があったこと。フロントマスクやリア、インテリアなどにタイプ00のデザインテーマを感じることができるらしい。おそらく、タイプ00のAピラーをさらに前に出して、コンベンショナルな4ドアとしたモデル、になるだろう。

昔ながらのジャガーファンは相手にしない?

注目の価格は、やはり2000万円以上だ。そうしなければビジネスが成り立たないことは冒頭に述べた通り。最終的には「ドイツプレミアムより上、ベントレーより下」あたりに定着したいのだと、とある首脳は語った。

問題は、古くからスポーツカーとしてのジャガーを愛してきたクルマ好きが英国や日本といった先進国市場にはまだまだ多いことだろう。そこはレンジローバーとは少し事情が違っている。レンジローバーのクラシックモデルがもてはやされるようになったのは、現行モデルの価格が上昇し人気を博してからのこと。もちろんコアなファンは昔からいたけれど、オフローダーとスポーツカーとでは内容がまるで違う。それにレンジローバーにはSUVブームというマーケットの後押しがあったことも幸いした。

昔ながらのジャガーファンは相手にしない。タイプ00はそういう宣言にも聞こえてくる。一方でJLRはクラシックセンターを充実するなどヘリテージビジネスにも力を入れている。要するにそこはバランス感覚のある戦略を取ろう、ということだろう。古いファンも決して見限ったわけじゃない。ヘリテージの重要さを知っているのは他でもない、彼ら自身なのだから。

まずは市販モデルの登場を待とうではないか。ジャガーの新時代を告げるパフォーマンスを有していることを期待して。真の批評は市販モデルをテストしてからでも遅くない。

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