サーキット専用車は手が出しにくい……?
2025年1月24日〜25日にRMサザビーズがアメリカ・アリゾナで開催したオークションにおいて、マクラーレン「セナ GTR」が出品されました。驚くことに納車以来の走行距離がわずか871km。オプション装備も非常に充実している1台でした。
生産台数わずか75台のセナ GTR
2017年に発表されたマクラーレン「セナ」には、その後さまざまな派生モデルが誕生していく。その中でも最もポピュラーな存在といえるのが、2019年に登場したサーキット専用車の「セナ GTR」。セナはそもそもオンロードカーでありながら、サーキット走行を積極的に楽しむためのモデルとしてのキャラクターが与えられていたモデルだったから、このGTRははたしてどれだけ魅力的な走りをサーキットで披露するのか。世界中のマクラーレン・ファンが注目したのは当然の結果ともいえた。
マクラーレンはセナ GTRの生産台数を75台とし、その開発プロジェクトを進めたが、当時マクラーレン・オートモーティブのCEOであったマイク・フルーイット氏は、このプロジェクトの理念を次のように要約している。
「オンロードカーの規制やモータースポーツのルールから解放されたことで、サーキット走行の能力をまったく新しいレベルに引き上げるために、技術的に可能な限界をさらに押し広げることに成功しました」
0−100キロ加速は2.8秒以下!
セナ GTRに採用された新たなメカニズムを見ると、彼の言葉がいかに重要な意味を持ったものなのかは容易に理解することが可能だ。たとえばエンジンはスタンダードなセナと同様の「M840TR」型4LツインターボチャージドV型8気筒のままだが、GTRは公道走行を想定していないためインコネルとチタニウムで成型されるエグゾーストシステムから二次触媒が取り除かれ、これにより最高出力は825psと、+25psの向上を果たした。
ちなみに最大トルクの800Nmには変化は見られなかった。加速性能はもちろん標準のセナを上回っている。0-100km/h加速は2.8秒以下、0-200km/h加速は6.8秒というのが当時マクラーレンから発表されたデータで、これには空力特性の変更も大きな役割を果たしている。
オプション装備も非常に充実した1台
再設計されたフロントのスプリッターの外側のエッジには空気の渦を発生させる装置が取り付けられ、車体下部のエアの流れはよりスムーズなものになった。リアウイングのデザインも一新され、250km/h走行時のダウンフォースは、スタンダードなセナが792kgであったのに対して、このGTRでは1000kgを得るに至っている。
そして驚くことにGTRでは、ドラッグの悪化はない。基本構造体となる「モノセルIII」も標準のセナと同様だが、フロントトレッドはやや広がり、ホイールはさらに軽量な鍛造アロイホイールに、タイヤはスリック、もしくはピレリ製のPゼロに改められた。これらの改良の結果、とくにメカニカルグリップの優劣が重要となる低速域でのコーナリングがより魅力的なものになっているのだ。
サーキット走行のために最適化された変更点はコックピットにも及んでいる。エアバッグやハンドブレーキは取り外され、代わりにFIA公認の6点式レーシングハーネスやデータロガー、カー・トゥ・ピット無線システムなどが装備された。ガラスはプレキシガラスに変更されている。
強気なエスティメートだったが……
今回RMサザビーズのアリゾナ・オークションに出品されたセナ GTRは、納車以来の走行距離がわずか871kmというもの。オプション装備も非常に充実しており、マクラーレンからの売却当時の資料によれば、希望小売価格の178万ドルに加えて、MSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーション)を通じて7万5000ドル相当のオプション装備が採用されている。
アイルトン・セナのヘルメットからインスピレーションを得たというボディカラーもきわめて魅力的なこの2020年式のセナ GTR。RMサザビーズは110万~130万ドル(邦貨換算約1億7158万円~2億277万円)と強気なエスティメート(推定落札価格)を示していたが、最終的な落札価格は97万3000ドル(同1億5177万円)にとどまった。やはりオンロードを走行できないサーキット専用車は、なかなか手が出しにくい存在といえるのだろうか。もちろんこれからの価値の上がり方には、十分にそれが期待できると評しておきたいところなのだが。